【開催レポート】5/13(月)People Analytics & HR technology CONFERENCE 2019

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、設立1周年記念イベントとして、「ピープルアナリティクスラボ」を公開カンファレンスとして2019年5月13日に開催いたしました(通常は法人正会員に参加を限定)。当日は200名を超える参加者が集まり、昨年以上にこの分野の盛り上がりと関心を実感できる機会となりました。この場を借りて関係者の皆様にお礼を申し上げますと共に、当日の開催報告をさせていただきます。

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People Analytics & HR technology CONFERENCE 2019 概要
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日 時 :2019年5月13日(月)19:00~21:30
場 所 :リクルートアカデミーホール

対象  :協会会員、企業の人事従事者、経営者、学校関係者
参加費 :法人会員:1口につき2名まで無料
法人会員以外の企業人事従事者:1社につき1名まで無料
一般:5,000円

【Agenda】
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19:00 基調講演
「人事におけるデータ利用の可能性と限界」~限界を知りつつ可能性を最大化する~
講師:山本 龍彦氏|慶應義塾大学法科大学院教授 /協会理事

19:50 サービス紹介
「従業員のエンゲージメントとHRテクノロジー ~リクナビHR Techのご紹介~」
南雲 亮氏|株式会社リクルートキャリア(会場ご提供/協会法人正会員)

20:20 パネルディスカッション
「日本の人事を科学する~より良いピープルアナリティクスに向けて~」
大湾秀雄氏|早稲田大学 政治経済学術院 教授/協会理事
向坂 真弓氏|株式会社サイバーエージェント 人材科学センター アナリスト/協会上席研究員
山崎 涼子氏|パーソルホールディングス株式会社 グループ人事本部 人事企画部 タレントマネジメント室 室長/協会上席研究員

21:10 ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の活動について
21:20 Digital HR Competition 2019ご紹介

21:30 散会
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基調講演「人事におけるデータ利用の可能性と限界」~限界を知りつつ可能性を最大化する~

講師:山本 龍彦氏|慶應義塾大学法科大学院教授 /協会理事
憲法学を専門とする山本教授からは、「個人の尊重」をキーワードにPeopleAnalyticsやHRtechの可能性と限界について個人の権利やプライバシーなどの観点からお話しいただいた。HRtechには個人を正当に評価することや、個人の潜在能力の開発に役立つなど、「個人の尊重」に役立つ側面があるため、HRtechの利用は憲法学の観点から見ても積極的な推進をされて良いものであるとのこと。一方で、プライバシーの侵害や能力開発などの本来の目的を忘れ、テクノロジーで人を管理することが目的化してしまうと、個人の尊厳を害することへ繋がってしまう。このようなHRtechの使われ方は、人類の権利獲得の歴史からも逸脱する行為であると共に、企業にとっても法的なリスクを伴う危険なものであると語られた。

また、HRtechにはプライバシーの問題からくる情報収集の限界やアルゴリズムによるAIプロファイリングにも限界があることから、最後判断には必ず人間が関与する大切さを訴えた。最後には、人事データ活用にあたって「プライバシー」と「個人の尊重」という基本原理や、以下の原則を忘れないようにすることが大切だと締めくくった。
・データ利活用における効果最大化の原則
・目的明確化の原則
・利用制限の原則
・適正取得原則
・正確性、最新性、公平性原則
・セキュリティ確保の原則
・アカウンタビリティの原則
・人間関与原則

執筆者コメント
山本教授の専門は憲法学で、一見PeopleAnalytic・HRtechとの関連が薄い分野ですが、今回お話しいただいた内容は、HRtechが発展していく中で重要な観点であると感じました。人間の尊厳という概念をHRtechの分野に適用することが、HRtechを発展させていく我々が目指すべき指針や基礎となることを学ぶ機会となりました。


パネルディスカッション「日本の人事を科学する~より良いピープルアナリティクスに向けて~」

大湾秀雄氏|早稲田大学 政治経済学術院 教授/協会理事
向坂 真弓氏|株式会社サイバーエージェント 人材科学センター アナリスト/協会上席研究員
山崎 涼子氏|パーソルホールディングス株式会社 グループ人事本部 人事企画部 タレントマネジメント室 室長/協会上席研究員
(モデレータ:古川 琢郎|三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 組織人事ビジネスユニットヒューマンキャピタル部 マネージャー/協会上席研究員)
パネルディスカッションでは、「ピープルアナリティクスを始めるために最初に何をすべきか・陥りやすい落とし穴とは?」をテーマに、以下の3つの内容について議論が進められた。
1.PeopleAnalyticsに向けての最初の取り組みとアドバイス
2.PeopleAnalyticsを取り組む際に最初に陥りやすい落とし穴
3.PeopleAnalyticsを始めるために、誰と組めば良いか


1.PeopleAnalyticsに向けての最初の取り組みとアドバイス
大湾教授:PeopleAnalyticsを「より良い意思決定を行うことを目的に、利用可能な個人(社員)に関する情報を分析すること」と定義した上で、PeopleAnalyticsに取り組む際に研究者の貢献できる点として、2点紹介。
・因果推論:人事施策の結果が、本当にその施策によるものなのかをはっきりさせ、分析結果を一般化させること
・モデルに基づく施策効果の予測:統計モデルに基づいて、将来の結果を予測すること

向坂氏:PeopleAnalyticsを「人事をファクトで語れるようにするもの」としたうえで、サイバーエージェントにおけるPeopleAnalyticsの取り組みを「データ回収」「見える化」「分析」の3つのプロセスに分けて紹介。正しいデータを回収し、全員が見えるようにして、意思決定に活かす。実際の実務は、このループの繰り返し。また、データの回収と見える化の部分が業務の9割を占めている。データ回収の部分では、社員の声をバイアスなく拾うためのアナログな運用も重要。

山崎氏:PeopleAnalyticsを「人事プロセスを有機的に統合的し、個別的になりがちな人事施策を統合するもの」と位置づけており、人事ポリシーを公正に運用するためのものと語った。社内での人事データ活用を「収拾」「管理」「分析」に分解して説明。データ収集におけるポイントは、シンプルさと強制で、データ管理におけるポイントは定期的にモニタリングとクリーニングを実施し、データをきれいな状態に保つことが大切。


2.PeopleAnalyticsを取り組む際に最初に陥りやすい落とし穴
大湾教授は、気をつけるべき落とし穴として人事データに隠れている「バイアス」を指摘し、最も典型的な例として「セレクションバイアス(母集団とサンプルのズレ)」を挙げた。例えば、採用する人材の活躍傾向を統計モデルで予測しようと試みた際に、サンプルとなるのは過去の社員のデータです。過去の社員は、面接などによって何かしらの基準に従って選別されているので、実際の母集団とはズレが生じる。このようなバイアスが生じると、分析のやり方が正しくても、誤った結論を導いてしまい、結果誤った人事施策に結びつく危険性がある。これを避けるためには、人事が基礎的な統計リテラシーを身につけることが大事だとして、人事の統計の理解の大切さを強調した。

向坂氏は、自ら経験した落とし穴に「現場との温度感のズレ」を挙げた。経営層のPeopleAnalyticsへの理解はあったそうで、むしろ大変だったのが現場との協力関係を築くことだったとのこと。PeopleAnalytics初期では、何ができるのかもわからないため協力を取り付けることが大変であった。この状態を突破するために、各事業部の人事上の課題を拾い集めるためにインタビューを繰り返し、意欲の高い部署と組むことで事例を作り出すことに努めた。また、現場の関心が高かった分野として「若手の早期活躍化に関する分析」を挙げた。早期に活躍する若手はどんな適性がある人物なのか、またどんな育成法をすれば若手の早期活躍につながるのか、現場ではそういった情報に関してのニーズが強かった。

山崎氏は向坂氏とは逆で、「経営との温度間のズレ」を落とし穴に挙げた。今でこそ、PeopleAnalyticsの効果は広く知られてきたが、当時は人事データを使って何ができるのか懐疑的な見方が強く、経営からは半年で効果を出すことが求められた。山崎氏は、実際にPeopleAnalyticsが役立つことを経営に示すために、外部の専門家も頼りながら既存のデータを活用した退職予測モデルを作成し、社員とその予測退職率の一覧表を経営陣へ示した。そこから、経営陣の協力を得ることに成功し、様々な現場へ展開できた。


3.peopleAnalyticsを始めるために、誰と組めば良いか
向坂氏は、自身の体験談からデータの分析結果を解釈できる程度の数字の強さがあれば必要な要件は満たしているのではないかとのこと。山崎氏は、データサイエンティストに参加して失敗してしまったという経験から、データよりも人に興味がある方が大事だと語った。人事に関するデータはデータ量が少なく、かつデータも完全でない場合が多いため、データエンジニアリングの観点から見るとデータクリーニングなどの地味な作業が多くなり、しかも技術的に高度なことにも挑戦できないということでデータサイエンティストとしてはあまり面白いものではなかったとのこと。大湾教授は、早稲田大学内で開催している人事情報活用研究会で質の高いアウトプットを出すのは、分析能力が高い人というよりも、自分の組織を良くしたいという情熱を持っている人だと語った。


執筆者コメント
今回のパネルディスカッションは、PeopleAnalyticsの取り組み方と最初にぶつかる壁、そして、誰と組むべきかについて、先駆者の事例を知ることができる貴重な機会でした。大湾教授からは分析や理論に関する知見を、向坂氏、山崎氏からは実際の取り組む際の、実務に関する事例をご紹介いただきました。面白いと感じたことは、向坂氏と山崎氏が共通して社内の温度間のズレを落とし穴として挙げているにもかかわらず、その対象が真逆だということです。PeopleAnalyticsの取り組みは、全社的に周囲を巻き込みながら進める必要がある一方で、会社によって最初に巻き込むべき対象は異なり、その対象によってアプローチも異なってくることが、2社の対比で気づきとなった方も多かったのではないでしょうか。これから、PeopleAnalyticsに取り組んでいきたいと考える人事担当者は、まずどの層を巻き込んでいく必要があるのかを考える上で非常に参考になったと感じます。また、人事は誰と組むべきかという点では、3者が共通して、データの扱いに関する素養よりもむしろ、人や組織が好きなことに優先度を高く評価していた点も特徴的でした。

執筆: 薄田 祐大

 

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