【開催レポート】6/18(木) 2020年6月度ピープルアナリティクスラボ


 
科学的なピープルアナリティクス~学術研究と実践知の実装~

ピープルアナリティクスラボとは、ピープルアナリティクスの概要・潮流・有用性を理解し、自社の取り組みに活用していただく(または委託の判断軸を持つ)ための会員向けベーシック講座です。2020年度のピープルアナリティクスラボは「より科学的・高品質なPA」を目指したテーマで活動していきます。2020年6月度は特に昨今の情勢を受けて、「科学的なピープルアナリティクス~学術研究と実践知の実装~」をテーマとして開催しました。

オンラインで出席いただいた会員の皆様に向けて、協会上席研究員の伊達さんから「ピープルアナリティクスにおける学術研究・理論の重要性と実装方法」、協会研究員の藤澤さんから「現場の実践知やマーケティング理論の活用事例」と題して、各種研究や理論、あるいは現場の実践知をどのように実装していくかについてお話しいただきました。また講演後は会員の皆様からの質問により、活発な議論がなされました。

 


 


 
ピープルアナリティクスにおける学術研究・理論の重要性と実装方法
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達 洋駆 氏

 

伊達さんからは、研究知見を用いた人事データ分析・組織サーベイを提供されてきたご経験から、研究知見を活用した分析プロジェクトの事例をご紹介いただき、その意義や課題について講演いただきました。

 

■研究知見をどのように用いるか:分析プロジェクトの紹介

・社内データをもとに社員の定着施策を検討したプロジェクト事例の紹介。この事例では離職の要因を探る必要があった

・まず、離職の要因について、経営学、心理学、社会学、経済学などにおける実証研究を収集・整理した。その結果、離職の要因には主に「組織コミットメントの低下」「ワークエンゲージメントの低下」「職務消耗感の上昇」などがあることが明らかになった

・次に、この事例におけるクライアント企業ではどの要因が当てはまっているかを離職者と残留者が回答した複数サーベイのデータを用いて検証したところ、「職務消耗感の上昇」が離職の主な要因であることがわかった

・さらに、研究知見の探索により、職務消耗感の上昇には「仕事量」「公平性」「役割曖昧性」「役割葛藤」「ワークファミリーコンフリクト」などが主な要因となっていることが明らかになった

・社内データを用いて分析を行い、この事例におけるクライアント企業では、特に「役割曖昧性」が職務消耗感の上昇の主な要因となっていることがわかった

・分析結果に基づいて「役割曖昧性を抑えれば職務消耗感も下げることができ、離職も防げるのでは」との仮説を構築した上で、役割曖昧性を抑えるには「周囲からのフィードバックが得られること」「上司が仕事について助言すること」が研究知見から見て有効かつ企業として実行可能と判断し、施策化した

・研究知見の活用は、分析を行うにあたっての仮説の精度向上および分析結果を受けた施策立案に有用である

 

■研究知見を用いる意義とは何か

・良質な意思決定につながるEvidence-based Managementの知識源として、「実務的な専門知識」「現場文脈からの証拠」「学術研究の知見」「利害関係者の視点」の4つを活用することが重要である

・学術研究の知見など異なる複数の知識を併用することで、意思決定の誤りを少しでも抑え、その精度を高めることができると考えられる

・実務的な専門知識(経験知)は対象の理解を可能・容易にする一方で、思い込みや不正確さが限界として指摘されている

 

■研究知見を用いるにあたっての課題

・研究知見は、他の知識より”上”ではないこと、唯一の”解”ではないこと、押し付けるべきものではないこと、他の知識を”代替”するものではないことに注意が必要である

・研究知見の収集は一般に困難であり、論文を読む人事マネジャーは1%未満であるとの調査結果(海外)がある

・研究知見は常に更新されるため、最新の議論を追う必要があることも実務家には負担。例えばビジネスで良く引用されるマズローの欲求階層説は、学術的には追試で再現できていない学説である

・研究知見はそのままでは利用できず、実務の状況にあわせて変換する必要があるため、実務家から研究に越境する「文化的仲介者」や研究者から実務に越境する「エキスパート」が必要になる

 


 

 

 

現場の実践知やマーケティング理論の活用事例
パーソルホールディングス株式会社 藤澤 優 氏
 

藤澤さんからは、マーケティング領域から人事領域に移られたご経験をもとに、現場の実践知とマーケティング理論について講演いただきました。

 

■パーソルホールディングス株式会社での人事データ活用

・人事データ戦略室を設置し、人事データの収集・管理・分析を担っている

・膨大な会社数・社員数の中でタレントマネジメントを実現するため、データ活用を推進している

 

■現場の実践知とマーケティング理論

・2015年頃から人事データの活用に挑戦してきているため、人事データ活用についても「現場の実践知」として様々な事例が蓄積してきている

・マーケティングの業務は、「調べる」(マーケティングリサーチ)、「考える」(マーケティング戦略)、「実行する」(マーケティングアクション)に大別される。これは人事の業務も類似している

・例えば離職率の低下に対応する際、「調べる」として離職アンケート、「実行する」としてフォロー施策が考えられる。ここで、「考える」に相当するデータの整理や仮説構築がない場合、アンケート結果と施策の連携が取れず、成果が上がらないことが想定される

・マーケティング理論の人事への応用として、セグメンテーション・ターゲティング、ペルソナ構築・ジョブ理論、4Pなどが考えられる。離職率の低下に向けた対応であれば、社員の属性による分類やセグメント別の離職率・理由整理、優先セグメントに向けた施策の検討といった人事の業務に活かせると考えている。また、人材ポートフォリオの設計においても、部内の人材の分類、各分類の理解、分類別の施策立案といった考え方で活用することができる

 

■マーケティング業務と人事業務の差異

・マーケティング理論のうち消費者理解に関するものは、人事業務においても社員理解のために応用することができるが、マーケティングと人事では目的の位相が異なる。マーケティングでは売上・利益が目的となるが、人事では社員の活躍やコスト削減が目的となることが多い。また、人事業務においてはマーケティングで考慮する競合が存在しない点も相違点として留意すべき

 

■現場との連携

・「調べる」はデータの収集や分析など、専門知識が一定必要なので人事データ戦略室で行うが、「考える」は現場を巻き込み一緒に行うようにしている。また「実行する」は現場に任せることが重要だと考えている

 

開催概要

日時:2020年6月18日(木)15:00〜16:30

会場:オンライン (Zoom)

参加者:50名 ※法人正会員のみ

 

講師:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達 洋駆 氏(協会上席研究員)

演題:「ピープルアナリティクスにおける学術研究・理論の重要性と実装方法」

 

講師:パーソルホールディングス株式会社 藤澤 優 氏(協会研究員)

演題:「現場の実践知やマーケティング理論の活用事例」

 

主催・問合せ先

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 事務局

e-Mail:info@peopleanalytics.or.jp