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2021.02.03

【開催レポート】1/28 (木) 2021年1月度ピープルアナリティクスラボ

アカデミア・政策、それぞれの現場からみた健康経営・デジタルヘルス

ピープルアナリティクスラボとは、ピープルアナリティクスの概要・潮流・有用性を理解し、自社の取り組みに活用していただく(または委託の判断軸を持つ)ための会員向けベーシック講座です。2020年度のピープルアナリティクスラボは「より科学的・高品質なPA」を目指したテーマで活動していきます。2021年1月度は「アカデミア・政策、それぞれの現場からみた健康経営・デジタルヘルス」をテーマとして開催しました。

オンラインで出席いただいた会員の皆様に向けて、厚生労働省の藤岡雅美氏から「健康と健康づくりを再定義する ~Health as the ability~」、東京大学の関屋先生から「“ポジティブ”に取り組む職場のメンタルヘルス対策」と題して、政策およびアカデミアのそれぞれの現場から客観的に健康経営や心理的安全性の在り方についてお話しいただきました。

 

健康と健康づくりを再定義する ~Health as the ability~
厚生労働省 健康局 健康課 課長補佐 藤岡 雅美 氏

■健康づくりに関する最近の議論

・最近では、「健康は本人の責任ではない」「健康づくりはコミュニティが大切」「健康はabilityである」という3つの議論が注目されている。

・健康は本人の責任ではないという議論では、1998年にSocial Determinants of Health(健康の社会的決定要因)が定義され、健康の社会的決定要因に係る知見の蓄積に加え、どのように健康の社会的決定要因に取り組むかが模索されている。

・健康づくりはコミュニティが大切という議論では、2016年頃からアメリカではPublic Health 3.0が提唱されており、先駆的なコミュニティがChief Health Strategistの役割を引き受け、「伝統的でない」パートナーシップにより、健康改善における歴史的な成功と、健康の社会的および環境的決定要因に焦点を当てて、健康の公平性を達成している。このような先駆的で拡大された地域の実践がPublic Health 3.0 として定義されている。「コミュニティを通じて行う健康づくり」から「コミュニティが主導する健康づくり」への変遷があると言える。

・健康はabilityであるという議論では、過去の健康観では健康が「静的」「状態」「目的」「生物学的側面」で捉えられていたが、近年の健康観では「動的」「資源・能力」「手段」「全人的側面」で捉えられるようになってきている。2009年にはオランダで「Positive Health」が提唱され、これは「社会的・身体的・感情的課題に直面した際に適応し、自ら管理する能力としての健康」と定義されている。

・これらを実現できているのが健康経営である。

 

■健康経営 ・健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することである。ここでは生産性の向上や企業の成長を主目的に据えている。

・健康経営に係る顕彰制度を設け、国としても推進している。企業や証券取引所とも調整を重ね、制度化した。

・健康経営の生産性等へのインパクトについては、個人の健康関連因子(「生物学的リスク」・「生活習慣リスク」・「心理的リスク」)とプレゼンティーイズム(相対的生産性損失など)・アブセンティーイズム(欠勤など)の相関分析を実施したデータも東京大学から出ている。

・働き方改革の第一歩は長時間労働是正であるというのはいいが、人口減少の日本で労働時間が減少するだけだと成?は下振れする。そこで、働き方改革第二章(働き方改革の本質)として、高い付加価値を生み出すために重要なのは、「生産性」と「エンゲージメント」の向上である。

・「生産性」を突き詰めた先に、「個人の働く幸せ」はあるのかという問題意識がある。生産性向上を業務標準化・効率化で対応しようとすると、ある意味、定型業務を機械的にやり続けることを要求するようなの。「企業」と「個人」で利害が対立しないように、「エンゲージメント」を向上させるための対応が必要である。

・従業員の「健康」が「エンゲージメント」に影響するという調査結果もあり、生活習慣と仕事の取り組み姿勢との関連性を分析したところ、3年間連続で「食事の量や内容に気を付けている」と答えた従業員および「良い睡眠がとれている」と答えた従業員は、そうでない従業員と比較し、仕事の取り組み姿勢が前向きであることがわかった。

 

■個人へのアプローチ

・割引現在価値の考え方からすると、「将来得るもの」は価値が低くなる。つまり「将来の健康のために今努力する」ことはモチベーションとして成立しづらい。そこで、「健康を別の価値(今求めているもの)に置き換える」ことや「健康を意識せずに健康になれる環境を作る」といったアプローチが個人に対しては有効である。

・健康を別の価値(今求めているもの)に置き換えるアプローチにおいては、個人の能力(スキル)と仕事の難易度(チャレンジ)のバランスが取れている状態(フロー状態)を維持することが重要となる。

・健康を意識せずに健康になれる環境を作るアプローチにおいては、ナッジ理論の応用が考えられる。ナッジ理論は選択肢をうまく設計・配置することによって、人の背中を押すように、人々に適切な選択をさせることやその手法を指す。ナッジ理論では、「Make it Easy(簡単にする)」「Make it Attractive(魅力的にする)」「Make it Social (社会化)「Make it Timely(タイムリーに)」というEASTと呼ばれる4つのポイントが重視される。

・また、環境整備という観点では、Personal Health RecordとしてITを活用した個別化の推進と環境整備も進めている。

 

“ポジティブ”に取り組む職場のメンタルヘルス対策
東京大学大学院 医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員 関屋 裕希 氏

■メンタルヘルス対策の意義

・2000年以降のリスクマネジメントの時期(安全配慮義務遂行、不調への対応・再発防止)を経て、ストレスチェックへの関心が高まり、近年では健康への投資(ワーク・エンゲイジメント、一体感を増進する取組み)としての側面が強くなってきている。

・ストレス要因を減らすだけでなく、職場の心理社会的資源を増やして生産性の高い組織と働き方(ポジティブメンタルヘルス)を実現することが最近のトレンドとなっている。これはポジティブ心理学の発展からも影響されていると思われる。

 

■新しい職場のメンタルヘルス対策

・従来は職場のストレスを低減することを重視していたが、「裁量がある」「役割が明確である」「失敗したときの支援」「ポジティブなフィードバック」などを職場の資源と捉え、それを活かしてポジティブメンタルヘルスを実現することがトレンドとなっている。

・ワーク・エンゲイジメント向上により、社員の健康、離職・休業の減少、生産性向上が期待される。心身の健康、一体感、ワーク・エンゲイジメントの向上によって従業員満足度・生産性の向上を図ることがポジティブメンタルヘルス対策のアプローチである。

 

■部署レベルの取組み:マネジメントコンピテンシー

・英国安全衛生庁(HSE)が部下のストレスを予防する管理監督者の行動(マネジメントコンピテンシー)を開発した。マネジメントコンピテンシーは「部下への配慮と責任」「現在と将来の仕事を適切に管理する」「チームメンバーへの積極的な関わり」「困難な状況における合理的な考えと対処」の4つで表される。

・研究では、マネジメントコンピテンシーの4要素がそれぞれ高いと「心理的ストレス反応」が低くなり、「ワーク・エンゲイジメント」「職場の一体感」「職務の遂行」「創造性の発揮」「積極的な学習」が高くなることが検証された。また、上司の誠実さ(言行一致の度合い)が高まると部下のワーク・エンゲイジメントが高まることがわかった。

 

■部署レベルの取組み:心理的安全性

・学術的には、1965年にEdgar Schein & Warren Bennisにより「人々が安心して組織の変化に応じて、自らの行動を変えるためには、心理的安全性が重要。心理的安全性によって、個人は批判されることへの防衛心や不安から解放され、集団の目標や問題解決に注目することができる」として言及され、1999年にAmy Edmondsonにより「職場で対人関係のリスクを選択することに対して安全であるという、 チームに共有された結果についての知覚」と定義された。

・前向きな提案はしやすいが、ネガティブな指摘提案はしづらいといった状況で重要なのが心理的安全性である。対人的なリスクをとっても問題ないという意識がチームで共有されていると、問題指摘行動や抑止的提言が実施されやすい。

・心理的安全性の研究をレビューすると、「学習と関連していること」「従属変数にパフォーマンスがあること」は、組織・チーム・個人の3つのレベルすべてで共通している。チームレベルでは、心理的安全性の高いチームは「対人リスクを感じることなく学習できるチームであり、パフォーマンスをあげられる」と言える。

・心理的安全性のためにできることは、チームレベルでは「相互理解」「発言しやすさ」「前向きな捉え方」の促進があり、個人レベルでは「仕事を学習の機会と捉える」「自他の間違いを認める」「好奇心を持つ」ことが挙げられる。

 

■個人レベルの取組み:ジョブ・クラフティング

・ジョブ・クラフティングとは、「働く人が自ら働き方に工夫を加えること」である。この工夫としては、「やり方の工夫」「対人関係の工夫」「考え方の工夫」が挙げられる。ジョブ・クラフティングにより、「ワーク・エンゲイジメント」「仕事の満足度」「心理的ストレス反応」の改善が期待される。

 

■個人レベルの取組み:リカバリー経験

・リカバリー経験とは、「就業中のストレスフルな体験によって消費された心理社会的資源を元の水準に回復させるための就業時間以外での活動」を言う。リカバリー経験は、精神的ストレスや身体的疲労を低減して、ワーク・エンゲイジメントや仕事のパフォーマンスを向上させる。リカバリー経験には「心理的距離」「リラックス」「熟達」「コントロール」の4つの側面がある。

・これまでは「上司が部下の不調のサインに気づく」ことが想定されていたが、これからは「自分で不調のサインに気づき上司に発信・サポート希求できるチームと部下を育てる」という自律の重要性が高まるのではないか。

 

開催概要

日時:2021年1月28日(木)15:00〜16:30j

会場:オンライン (Zoom)

参加者:45名 ※法人正会員のみ

講師:厚生労働省 健康局 健康課 課長補佐 藤岡 雅美 氏
演題:「健康と健康づくりを再定義する ~Health as the ability~」

講師:東京大学大学院 医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員 関屋 裕希 氏
演題:「“ポジティブ”に取り組む職場のメンタルヘルス対策」

主催・問合せ先

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 事務局
e-Mail:info@peopleanalytics.or.jp

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