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2023.12.04

【開催レポート】Digital HR Competition2023

 

Digital HR Competition2023

「Academia」(理論)と「Technology」(技術)と「Service」(実務)の垣根を越えて、「労働市場における社会課題の解決」をテーマとして、好事例を共有し、より高い成果を求めていくべく、競い合い、学び合う場としてスタートした本コンペティションは、今年で6回目の開催となりました。

予選審査を経て、審査員である最先端の大学の教授や先生方とオンラインの観覧者に向けて、2023年10月18日にはHRテクノロジーソリューション部門4社、2023年11月2日にはピープルアナリティクス部門4社が最終プレゼンテーションを実施し、グランプリ受賞者の選出と表彰が行われました。

【公式ホームページ】
https://digital-hr.jp/

 

HRテクノロジーソリューション部門

グランプリ

株式会社リフレクト

【タイトル】人材育成・マネジメントはwithAIの時代へ。人とAIによる成長・自立促進。
【概要】AIコーチがチーム日報へ、リアルタイム自動アドバイス・チア・問いかけ・評価で補助
プレゼンター:CEO代表取締役 三好 淳一 氏、CTO 高木 洋介 氏

<ご発表内容>
・日本では労働力人口が減少傾向にあり、生産性の向上が課題である。一方で育成・マネジメント支援はDX化されていない。
・日報には業務支援、内省支援、精神支援の効果があり、この効果を人間とAIの相乗効果を通じて高める。AIとしてはChatGPTを活用する。
・reflectを用いると、部下の振り返りに対してAIがアドバイス・問いかけ・チア・評価を実施する。上司は人間ならではのコメントに注力できる。これにより部下の成長と上司の生産性向上が期待できる。
・アドバイスだけでなく、ルーブリック設問をもとにした評価をAIが実施する。
・AI初心者用にプロンプトのテンプレートを用意している。
・大企業、中小企業、大学など様々な組織で導入され、好評をいただいている。
・今後は社内文書(URL、PDF)の検索機能を実装予定。またAIコーチの選択、カスタマイズや長期記憶保持化、ルーブリック設問カスタマイズなどを行っていく予定。

<受賞コメント>
三好 氏:評価をいただきありがとうございます。他の発表の皆様も素晴らしいプロダクトでしたので、切磋琢磨しながら世の中に貢献できればと思います。
高木 氏:他のプロダクトから勉強し、取り入れたいと感じました。僅差での受賞だと思いますので、このあと情報交換させていただければと思います。

ファイナリスト

株式会社PROJECT COMP

【タイトル】納得感のある評価を実現する最先端のデータ主導型報酬決定プラットフォーム
【概要】データに基づく合理的な報酬決定で、社員のパフォーマンスを引き出す具体的な方法
プレゼンター:代表取締役社長 田川 啓介 氏

<ご発表内容>
・生産年齢人口の減少は周知の事実である。労働意欲の低下も感じている。その原因は給与・評価の納得感がないことにあると考えている。本音の退職理由は給与・評価の納得感がないというところにある場合が多い。
・給与・評価の納得感がある状態に変えられれば、社員のパフォーマンスが向上する。
・「評価の納得感を担保しながら社員のパフォーマンスを引き出せている企業・マネージャーがやっていること」を誰もができるようにするサービスを提供している。具体的には適切な評価プロセスを作り、それをマネージャーが徹底する。
・マネージャーがプロセスを徹底することを支援している。逆算での目標設定、マンツーマンによる支援、適切な判断の支援を行っている。
・適切な判断の支援のために、人事コンサル、AIによるレビュー機能、給与査定サービス、適切な評価データの蓄積を行っている。AIによって目標の適切さのチェックや表現の曖昧さの排除が可能。
・今年リリースしたサービスだが、IT業界を中心に70社超に利用されている。数ヶ月で効果が出る。
・今後は、現在は人間が提供しているサービスをAI・Webに置き換えてより誰でもできるようにしていく。

ファイナリスト

株式会社Ex-Work

【タイトル】ジョブ型組織に欠かせない「職務・ポジション」情報の効率的な運用を実現
【概要】日本企業で必要なジョブ型組織の実現をジョブマネジメントシステムJob-Usで支援
プレゼンター:代表 馬渕 太一 氏

<ご発表内容>
・ジョブ型・職務給の導入が内閣の「三位一体の労働市場改革指針」もあり、ホットトピックとなっている。
・グローバルスタンダードのジョブ型では職務要件で組織が作られる。日本のメンバーシップ型では職務要件はあまり意識されていなかった。
・適材適所の適所側の情報が片手落ちになっていたと言える。適材の人材マネジメントがあり、適所のポジション・ジョブマネジメントがあって、Job-Usではポジション・ジョブマネジメントを支援する。
・Job-Usではポジション管理、職務記述書(JD)の作成・運用、職務評価(職務の価値づけ)、分析・比較、報酬管理、人材マッチングが可能となっている。
・Job-Usによって効率的に継続運用が可能となり、データも蓄積できる。データは分析に活用し、今後は組織編成支援、JD作成支援、最適人材提案、適正ジョブサイズ判定、適正報酬判定(市場データ活用)などを支援していく。
・大企業にも導入されており、市場規模はジョブ型の普及に伴い拡大する見込みである。

ファイナリスト

Thinkings株式会社

【タイトル】選ばれる企業のための組織づくりのプラットフォーム「sonar HRテクノロジー」
【概要】採用DXで煩雑な採用業務を改善、応募者一人ひとりに向き合う質の高い採用活動を実現
プレゼンター:CHRO佐藤 邦彦 氏

<ご発表内容>
・2040年に1,100万人の労働力が不足するとされている。採用担当者は採用に不安を抱えており、採用活動を改善したいと思っている。採用が難しい時代となる。
・企業は「選ばれる側」になる。応募者一人ひとりに向き合う採用プロセスの設計が必要である。採用DXでこれを支援する。
・採用におけるエントリーから内定まで一連の行動を一元化して効率化するサービスを提供している。35,000エントリーから700内定を出す大企業の採用フローにおいて、3,500名に対して1次面接を行う必要がある場合、予約案内から合否連絡まで自動化することで24,500アクションの自動化が可能。
・45以上のサービスと連携し、1,600社に導入されている。人事の残業時間の削減や離職率の抑制に効果を上げている。
・現在は採用のステップごとにAI活用や自動化を行っているが、今後は採用DXにより瞬時に合否を判定できるようにすることを想定している。

 

審査員長 講評

早稲田大学政治経済学術院 大湾秀雄 教授

これまでの中で最も粒ぞろいだったのではないかと思う。各社はジョブ型、育成、公平な評価、マッチングの効率化など日本企業の直面している課題に取り組んでいると思う。共通点として、人間・コンサルがやってきたことを機会に置き換えるという側面があった。これはすごいことだが、加えて、それにどういう追加的な付加価値を付けるか、あるいはどのように社会や組織を変えるのかの展望がある企業にグランプリを与えたいと考えていた。株式会社リフレクトはその点で可能性を感じた。AIによる育成支援は発想としては自然だが、実践は大変だと思う。スキル評価の最適化によって業務の効率化が可能だと思う。将来的にはキャリアコンサルティング機能を付けてほしいと感じた。株式会社PROJECT COMPについては、評価の納得性の重要さは様々な研究を見ていても感じる。その点にアプローチする製品であることは素晴らしい。問題点としては、スキル評価の軸が欠けているため、統一的な管理ができるのか不安に感じた。例えば経営層にインプリケーションを与える機能として、可視化のが強化されるといいのではないか。株式会社EX-WORKはジョブ型雇用への移行を容易にするサービスとして評価された。これまでコンサルがやっていたことを機械に置き換えるだけでなく、さらなる付加価値を期待したい。THINKINGS株式会社は工数削減によるインパクトにはニーズがあると感じた。ただし今後の展開としての「瞬時の判定」には引っ掛かりがあり、差別や誤差の抑制の観点から、人の採用は瞬時に判定すべきものではないのではないかと感じる。多様性のマネジメントをするような仕組みであってほしい。最後に大学で働くものとして、就職活動では学生が授業やゼミを欠席せざるを得ないが、それが重要なものであっても多くの企業はそれに配慮していない。就職活動が学生の学ぶ機会を奪っている。できれば学生のニーズも取り入れ、学生が学ぶ機会を失わずに就職活動できるような仕組みを作ってほしい。これができれば企業・学生・大学いずれもWIN-WINとなる。

審査員コメント

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 岩本隆 特任教授

審査の4つの軸のうちどの軸を重視するか非常に悩む、難しい審査だった。ファイナリストは、日本企業が困っている旬のテーマに対してアプローチしていた。ドメスティックではあるが、日本企業のためになる取り組みだと感じる。株式会社リフレクトは、キャリアサポートへの要望が高まっており、上司よりもAIを信用するという調査結果があるが、まさにその点をサービスにしている。その意味でいま課題になっているところに取り組んでいると言える。他のファイナリストもぜひこれをきっかけにビジネスで成功していただければと思う。

株式会社日立製作所 矢野和男 フェロー

HRにおけるテクノロジーの活用は大きな転換点に来ていると認識している。生成AI前と生成AI後は自動車の登場前後のような大きな転換点と言える。これまではテイラー以来の業務プロセスを機械がやるという流れだったが、ChatGPTの柔軟性によって、人間に寄り添った対応ができるようになってきた。その認識の中で、株式会社リフレクトは高く評価されたということだと思う。他の3社も含め、どの企業が受賞してもおかしくなかった。生成AIによる状況の変化の中では積極的に探索していくべきであり、HRは人間に対する分野という意味で生成AIの能力が生きる分野だと思う。株式会社リフレクトは若い企業であり、ポテンシャルも評価された。4社ともこの新しい波を味方につけて取り組んでいっていただきたい。

 

早稲田大学理工学術院 創造工学部経営システム工学科 後藤正幸 教授

今年も非常に楽しめた発表だった。Thinkings株式会社は採用管理システムの自動化であり、わかりやすかった。一方で、将来に向けてやるべきことが多いと思うため、引き続き頑張っていただきたい。株式会社Ex-Workはジョブ型の重要性に絞ってテクノロジーを展開している点が秀逸。テンプレートの用意は大変だったと思うが、データの蓄積により様々なことが可能になるという展望が素晴らしい。株式会社PROJECT COMPは適切な評価プロセスは社員の気になる点であり、それを明確にするサービスで具体的にイメージできるところが良い。ただし技術的な面をもう少し強調しても良かった。株式会社リフレクトは技術的なところがわかりやすく、タイムリーであった。新しいものを取り入れて現実の問題を解決する点が評価された。また新人の育成にフォーカスする点が良い。大学の学生のレポートでも最近はChatGPTの使用が疑われるものが増えており、どう評価するかに苦労している。ChatGPTの良い使い方を一緒に考えていきたい。

明治学院大学経済学部 児玉直美 教授(元 経済産業省)

全体として、いずれの企業も人手不足が前提となっているのが印象的だった。HRテクノロジー部門として技術的に何がすごいのか今一つわからない企業が多かったことと、効果を定量的に示していない場合が多かったことが気になった。株式会社リフレクトは今後のリリース機能の中でAIコーチの選択などを提示していたが、この商品化を期待している。株式会社PROJECT COMPは評価の設定時点での従業員との会話が評価の満足度に影響するという観点で、テックというよりもコンサルに近いと感じ、印象的だった。株式会社Ex-Workについては、職務定義書は定性的なものであり、テクノロジーだけでは解決できないように思うので、研修などとあわせて商品化するのが良いのではないかと思った。Thinkings株式会社はHRテクノロジーを使った業務効率化の見本と言える。大量のエントリーシートを処理する必要のある人事にニーズのあるものだと感じた。

ピープルアナリティクス部門

グランプリ

株式会社デンソー

【タイトル】職場の挑戦を支援するピープルアナリティクス:定量×定性データフィードバックの実践
【概要】データやその示唆を生成AIも活用しながら職場に提案、職場の意識や行動の変化を支援
プレゼンター:人事企画部ピープルアナリティクスチーム 井手 孝幸 氏、藤澤 優 氏

<ご発表内容>
・上司の挑戦を支援するピープルアナリティクスとしてマネジメント支援を行った。具体的には部下への評価フィードバックやキャリアに関する対話のデータによる支援。
・節目面談の準備と面談後の振り返りを、データを通じて支援。管理職全員に対して面談準備研修と面談後の結果のBIツールによる可視化を行っている。これによって面談の実施率、面談後の部下の意欲、エンゲージメントが改善した。
・社員の挑戦を支援するピープルアナリティクスとしてキャリア実現支援を行った。具体的には社員の自律的なキャリア実現をデータから支援。
・自社内におけるキャリア要素の特定、クラスター分析、生成AIの活用を行った。キャリア要素については構造方程式モデリングでキャリアサーベイを分析、キャリアと仕事の接続が重要であることや「仲間への貢献意欲」が自社の特徴的な要素であることがわかった。
・クラスター分析各の結果を研修に参加いただいた社員に共有し、自分の立ち位置を認識するのに役立った。またこの結果を踏まえて生成AIを活用した業務アプリケーションを実装し、あわせて自社データを埋め込み(Embedding)することで自社の特徴にあわせたキャリアアドバイス等ができるようになった。
・統計分析や生成AI活用することで、人事担当者の工数の削減や人事からの提案の質の向上が見込まれる。

<受賞コメント>
井手 氏:この度は賞をいただき恐縮です。いずれのファイナリストの事例も弊社で取り組んでみたい事例でしたので、勉強になりました。その中で評価をいただきましてありがとうございました。弊社ではPROGRESSという人と組織の改革の中で、ピープルアナリティクスの取り組みを人事で一体となってやっております。一緒に取り組んだメンバーにこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。引き続き日本のものづくりの産業を人事からも盛り上げていきたいと考えております。

藤澤 氏:このような栄誉ある賞をいただけて光栄です。人事領域でこの生成AIを活用するのは非常に難しいと思っています。一方でピープルアナリティクスの領域で生成AIの論点は見逃せないだろうということで今回事例を紹介しました。引き続き、職場の皆様や協会の皆様と学びながらこの領域で何ができるのかを突き詰めていきたいと考えております。

ファイナリスト

KDDI株式会社

【タイトル】出社がコミュニケーションに与える影響:統計的因果推論による分析
【概要】出社の影響を統計的因果推論により分析。称賛・感謝に関してポジティブな変化を確認
プレゼンター:人事企画部 ピープルアナリティクスグループ 安藤 盛洋 氏

<ご発表内容>
・出社が増えた社員はコミュニケーションにどういった影響があったのかを分析した。エンゲージメントサーベイのデータを利用し、傾向スコアマッチングによる分析を試みた。よりエビデンスレベルの高いRCTを行いたかったが実際には難しいため、傾向スコアマッチングを選択した。
・所属部署や年齢などのデータを用いて傾向スコアとして算出し、類似のスコアの従業員をマッチングさせたが、カテゴリ数が多くデータ数の少ない人事データの性質などから上手くマッチングしなかったため、決定木分析を用いたマッチングであるProximity(近接性)マッチングを行った。これにより傾向スコアマッチングよりも高い精度でマッチングすることができた。このマッチング精度の評価は比較群における共変量のバランスを確認することで行った。
・マッチング後においても、軽微ではあるが調整しきれなかったスコア差分があったため、DID(差の差分析)を利用した重回帰分析を用いて効果量を算出した。その結果、「成果に対する承認」というエンゲージメントサーベイの項目において、出社増の社員では変化なしの社員に比べ、統計的に有意な差で高いスコアを示した。この差の程度は別の社内施策で向上させたものと同等であり、大きな差だと考えている。
・この結果を受けて、感謝や称賛を出社時における意識すべき行動として全社員に展開した。
・人事領域の特徴としてRCTが難しく、カテゴリデータが重要な因子となる一方でそのカテゴリ数が多く、データ数が少ないというものが共通しており、今回の分析手法はその他の人事施策についても活用可能である。

ファイナリスト

パーソルキャリア株式会社

【タイトル】パーソルキャリアの次世代人事データ活用 HRデータ基盤・データマネジメントの先行事例
【概要】人事組織でのデータ活用・データ基盤構築・データマネジメントの取り組み事例紹介
プレゼンター:人事IT推進部HRDXグループ 長谷川 智彦 氏、柳 賢二 氏

<ご発表内容>
・人事でのデータ活用の実現のために仕組みから作るための次世代人事データ活用3テーマとしてデータ基盤構築、データマネジメント、データ活用があり、これを整備した事例を紹介する。
・まずは人事内にIT組織を作り、人事でのデータ活用の実現を進めた。
・データ基盤構築では、人事にある全てのシステム・帳票の棚卸を行い、システムの統合を行った。特に拡張性とスモールスタートを重視してクラウドを選択し、セキュリティの観点からデータ項目単位でアクセス権限を制御できるようにした。
・データマネジメントでは、体制と人事でのデータマネジメント方針から定め、データを活用できる状態で整備し、データカタログを作成したことで、1-2ヶ月かかっていたデータ収集作業が1-2週間に短縮され、システム開発もしやすくなるといった効果があった。
・データ活用では、インフラの整備と同時並行で活用事例を短期間で作るため、人事でのプロジェクトノウハウをもとに育成プログラムを内製開発した。これにより人事現場メンバーが自力でBI開発・分析が可能になった。

ファイナリスト

パナソニックホールディングス株式会社

【タイトル】"一人ひとりが活きる経営"に向けた適所・適材の実現
【概要】社員の経験・スキル・資質データを用いた、ポストと人のマッチ度計測アプリの開発
プレゼンター: 萩原 章義 氏


<ご発表内容>
・パーソナライズされたタレントマネジメントを行うにあたって、社員データの散在・不足と勘と経験則への依存という2つの課題があった。
・社員データの散在・不足に対してはグループ国内全社の人材データの活用基盤構築・可視化に着手し、属性以外に経験やスキル、資質の情報やキャリア希望を定義・収集した上で、一括で参照できるシステムを展開した。
・経験則への依存に対しては、高度な人材検索として通常の人材検索に加え、後任検討や新設ポスト発生時に役立つ検索補助機能も同システムに導入した。この仕組みにより、人事経験に関わらず、高度な人材抽出が可能になった。
・さらに発展的な取り組みとして、ポスト・人マッチング予測のため、配置・異動検討や公募・キャリア開発等への活用を目的とした機械学習モデルを開発し、アプリケーションに組み込んだ。
・このモデルには主に「属性・評価データ」「経験・スキルデータ」「資質データ」を利用した。属性については、バイアスや属性間の人数差による影響も考慮した。・即戦力の抽出を目的とする「活躍度予測モデル」に加え、将来性・ポテンシャルを踏まえた人材抽出を行うことができる「類似度診断モデル」を併用することで、より実現性のある適所・適材の支援を狙った。
・その結果、各職種や職位等の「活躍者に見られる特徴」には差異があり、その差異自体も特徴的だった。また、活用においては利用者側のデータ分析に関する理解が重要と考え、リテラシー向上の施策も併せて実施した。
これらの結果は会社主導の配置・異動検討のみならず、社内公募やキャリア開発においてもデータ起点での新たな気づきを得るツールとして活用できる。

審査員長 講評

早稲田大学政治経済学術院 大湾秀雄教授

審査の際には、多くの日本企業にとって課題となっていることに対して真正面から取り組んでいるかが大きなポイントとなっている。株式会社デンソーはキャリアの自律性を確立する、中間管理職を育成するといったいま最も重要視されている課題に取り組んだ点で評価が高かった。また技術的に難しいことに慎重に取り組み、社内のカルチャーに合った仕組みを作った点も良かった。パナソニックホールディングス株式会社のポジションと人のマッチングの改善も多くの企業にとって重要な課題だった。その課題に対しての完成度の高い成果であり、評価できる。今後、社内でチャンスを与えられずにいる若手等を発見し、活躍してもらえるようにすることが求められる。また最終的には現場で活用できるようにする必要がある。今後は人事による中央集権的な人材配置は難しくなっていく。現場・従業員個人が主体となる分権的な人材配置が必要となる将来像を見据えていってほしい。パーソルキャリア株式会社はデータ活用の基盤整備が多くの企業でできていない中で、その取り組みが評価された。ただ、行っているのかがより具体的に見えてくるとよかった。KDDI株式会社は因果推論の基本に沿って分析を行っていたことが評価できる。もう少し施策に繋がる分析としていただきたかった。どういう部署で出社が必要になっているのかを検討し、平均的なインパクトだけを見るのではなく、部署ごとの異質性を踏まえた分析を行うことで、部署ごとに出社を推奨するか否かの方針が立てられると考えられる。全体として各社とも日本企業が抱える課題に愚直にリソースを投入し、分析をまとめてエビデンスを構築しており、その努力は非常に評価できる点だった。

審査員コメント

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 岩本隆 特任教授

ピープルアナリティクスはもともと北崎さんが2014年ごろに言い出したと思うが、その取り組みがやっと実を結んだと感じ、感慨深い。ファイナリストは4社とも個人ではなく企業としての取り組みとしてピープルアナリティクスを行っている。以前は熱心な方が個人で取り組んでいた。年に1-2回名古屋で東海地区の企業に対して講演しているが、東京の企業の事例を話してもピンとこない。トヨタ、デンソー、アイシンなどの東海地区の企業の事例が響くため、次回からはグランプリとなったデンソーの事例を取り上げ、東海地区のピープルアナリティクスが一気に進むことを期待したい。他の3社も面白かったが、侃々諤々の議論の上で今回のグランプリは株式会社デンソーとなった。

早稲田大学理工学術院 創造工学部経営システム工学科 後藤正幸教授

楽しい発表を聞かせていただき、勉強になった。今回は接戦で審査員の意見も割れた。パナソニックホールディングス株式会社はパフォーマンスの高低よりもパフォーマンスが上がるか、下がるかに注目したい。高度なレベルで機械学習を使いこなしており、評価が高かった。パーソルキャリア株式会社は他の発表とは切り口が異なるが、インフラの整備は非常に大変であり、それを評価したいという声があった。ただ、提示されたデータ活用の世界観をベースに発表のストーリーを構成いただくとよりわかりやすかった。KDDI株式会社は取り組みが興味深かったものの、発表だけでは分析プロセスに不明な点が多かった。出社がコミュニケーションに与える影響はタイムリーな問題であり意義がある。株式会社デンソーはクラスターごとの分析を行っていたが、中にはサイズの小さいクラスターがあると考えられ、分析への影響が気にかかった。各社総じて素晴らしい発表だったと感じる。

明治学院大学経済学部 児玉直美 教授(元 経済産業省)

株式会社デンソーは成果が検証されているのが素晴らしいポイントだった。例年、効果の検証がされていない企業が多い。また生成AIについて人間関与の原則にもとづきあくまで補助的に使っている点も良かった。KDDI株式会社は厳密な分析を行っており納得できる結果だった。もう少し長期的なアウトカムが見られるとより良い。出社の効果に新しい出会いがあることが考えられるため、数年後の離職率や生産性などに影響している可能性がある。パーソルキャリア株式会社は人事データ活用のためのインフラ整備は重要であり、最も将来性があると感じた。ただ現在はインフラの整備に人材が投入されているが、インフラを活用してピープルアナリティクスを行う人材はまた別の傾向を持つと考えられるため、今後人材構成の転換も必要になる可能性がある。パナソニックホールディングス株式会社はオーソドックスな取り組みであり、ぜひ交流や製品化を通じて他の企業にも普及していただきたいと感じた。

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 北崎 茂 理事

非常に楽しく興味深い内容だった。基盤、チャットボット、オペレーションの高度化など様々な進化の方向性が見られた。またほとんどの企業が人事のアナリティクスの専門部署を設けており、本当に大きな変化だと感じている。ピープルアナリティクスはHR・人事部門だけではなく、現場で起こっている人にまつわる色々な課題を扱うものであるため、企業内に様々なオポチュニティがある。手元にある人事データからスタートすることは常套手段ではあるが、ぜひHRを超えたピープルに対する課題を発見し解決していっていただきたい。

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