【開催レポート】第1回ピープルアナリティクスラボ/People Analytics & HR technology CONFERENCE 2018

人と社会全体を幸せにするテクノロジーの活用のために
新たな社会に枠組み作りに取り組む決起集会

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、設立を記念すると共に、当協会の目的と課題意識の社会への共有のため、会員向けのベーシック講座「ピープルアナリティクスラボ」の第1回講座を、会員以外にも公開した設立記念カンファレンスとして2018年5月23日に開催いたしました。当日は会場定員(200名)を遥かに超える参加者が集まり、改めてこの分野への関心と期待の高まりを感じる機会となりました。この場を借りて関係者の皆様にお礼を申し上げますと共に、当日の開催報告をさせていただきます。


[基調講演1] ピープルアナリティクス概論 ~求められる4つのスキル~
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 北崎茂氏

「今のピープルアナリティクスをめぐる盛り上がりは、やや地に足がついていないような、バブル感がある」。ピープルアナリティクスという言葉が日本で使われる以前から、人材データ分析のコンサルティングに従事する北崎氏は冒頭でこう述べ、ピープルアナリティクスとHRテクノロジーに関する、よくある混乱や疑問を解きほぐすところからお話を始めていただきました。

<よくある疑問>
◎HRテクノロジーとピープルアナリティクスはどうちがうのか
◎過去のデータを使って、未来を予測して大丈夫なのか
◎これまで行ってきた人事分析とピープルアナリティクスは、何が違うのか
◎なぜピープルアナリティクスが必要なのか
◎具体的に何を変えなければならないのか
◎今までのやり方ではいけないのか
◎どこから手を付けるのがいいのか
◎アナリティクスプロジェクトで起こりがちな問題 等

そして、ピープルアナリティクスに求められる4つのスキル(1.課題設定力 2.データ化力 3.分析手段選択力 4.解釈/説明力)と、その具体的な作業内容イメージを示し、一人の人材や組織がこのすべてをカバーすることは、難しいこと。単一部署、例えば人事部内だけで取り組んだ結果、相当な時間ロスがあるだろうことを事例をあげて説明し、事前に組織化して取り組む必要性を強調して講演を結びました。


[基調講演2] より良いPeople Analyticsのための人事経済学講座
早稲田大学 政治経済学術院 教授 大湾英雄氏

大湾教授からは、学術的な理解によって正しい人材データの分析と普及・活用を促進できる、として4つの柱でご講演いただきました。

1.「AIの経済学」を理解する
・RPAによって人の業務が機械に代替されることの直接的な効果だけをみれば、労働分配率は下がり、雇用も賃金も押し下げてしまう。テクノロジーの推進者は、このことを理解して取り組まなければならない。
・一方で、そこから生まれる新しい業務ある。例えば、かつて技術革新によって大量生産が可能になった結果、「マネジメント」という職業が生まれた(現在は、データサイエンティストという職業が生まれつつある)。新しく生まれる業務は、より労働の付加価値の高い業務であることが期待できる。
・しかし今の懸念は、新しい業務を行える人材がいないために成長が阻害されてしまうこと。
・テクノロジーの推進側の使命は、機械化の範囲を賢く設計すること。新しい業務を行える人材を育成すること。より多くの人が高度な業務につけるよう技術の標準化を進めることである。

2. 人的資本理論を理解する
・人的資本には、汎用的な能力、「一般的人的資本」と、特定の企業でのみ価値のある「企業特殊的人的資本」がある
・業種や業務によって必要とする能力の配分は異なり、理論的にどの業種はどんな要因を分析すれば、人材の何が予測できるか(離職リスク等)を導き出すことができる。
・ハイパフォーマーのもつ能力を分析し、その能力が変更可能なものであれば「能力開発」に活かし、変更不可能なものであれば採用活動にフィードバックすることができる。得られた結果を、企業だけのメリット、例えばローパフォーマーの切り捨てなどのために使ってはならない。
・質の高い人材データの獲得は、従業員と経営陣の信頼関係がないと恣意に満ちたものになってしまう。

3.統計学を理解する
・データを信頼性の高いものにするためには、いくつかの技術が必要(数字だけでなく、社会や人への洞察力が必要)
→セレクションと欠落変数によるバイアス/相関関係と因果関係の特定のしかた(例示)
・把握した要因が、時間の経過と共に変わるものかどうかによっても、とるべき対応が異なることに注意
・把握したデータは平均値であり、現実でのばらつきを考慮しなければならない
そして、データ活用は社員の利益のために使わなければならない。企業の利益のためだけに使えば、必ず社会的・道義的問題が起こり、反動ともいえる規制がかかるとして、「4.よいPeople Analyticsのためのガイドライン」の大湾教授の試案を提示し、この内容について広く議論していきたいと呼びかけ、講演を締めくくりました。


研究員より

日本ではジョブディスクリプションが明確でないため、ピープルアナリティクスを行うのが難しいという見方もあります。また、今後個人情報保護という課題とも整合性をとらなければなりません。しかし、人材データがあまり活かされないということは、一人ひとりの人材の能力があまり活かされない、ということにもつながります。社会にとっても企業にとっても個人にとっても、これからよい方向に向かっていくために、多くの皆様に参加していただき、新たな枠組みを作っていきたいと考えています。

執筆:ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 研究員
植松 真理子