【開催レポート】10/27(火),11/10(火) Digital HR Competition 2020
Digital HR Competition2020
「Academia」(理論)と「Technology」(技術)と「Service」(実務)の垣根を越えて、「労働市場における社会課題の解決」をテーマとして、好事例を共有し、より高い成果を求めていくべく、競い合い、学び合う場としてスタートした本コンペティションは、今年で3回目の開催となりました。3年目は感染症拡大防止に配慮して、オンラインを活用した形式で、2日間にわたって開催いたしました。
予選審査を経て、審査員である最先端の大学の教授や先生方とオンラインの観覧者に向けて、2020年10月27日にはHRテクノロジーソリューション部門4社、2020年11月10日にはピープルアナリティクス部門4社が最終プレゼンテーションを実施し、グランプリ受賞者の選出と表彰が行われました。
【公式ホームページ】
https://digital-hr.jp/
HRテクノロジーソリューション部門
グランプリ
株式会社KAKEAI
【タイトル】マネジメント支援から社会を支える|ピープルサクセスプラットフォーム「カケアイ」
【概要】重要性と難度が急激に高まる最前線のピープルマネジメント支援から社会を支える仕組み
プレゼンター:代表取締役社長 兼 CEO 本田 英貴 氏
<ご発表内容>
・リモートワークなどにより、企業を取り巻く環境と社員の働き方が同時に大きく変化する中、企業と従業員の結節点として現場マネジャーの重要性が高まっている。
・いま、問題が表出しているのは業務マネジメントよりもピープルマネジメント。そして、ピープルマネジメントは業務マネジメントよりもマネジャーの個人力への依存が大きく、属人的になりやすい。この現場マネジャーのピープルマネジメントを支援するのが「カケアイ」である。
・例えば、「カケアイ」の1on1支援機能では面談前に、メンバーが自分に求めている対応(話を聞いて欲しい、意見が聞きたい、一緒に考えて欲しい…)を掴むことができる。さらに、自分はマネージャーとしてその対応は「得意」だから普段通りの対応をすればよいのか、不得意だから注意して臨むべきなのかを知ることができる。さらに、カケアイを利用する多くの企業の現場マネジャーが実際に意識しているコツが、マネジャー自身や1on1の相手であるメンバーの特徴に合わせて自動でレコメンドまでされる。
1on1後に、メンバーは「すっきり」したかについてボタンを押す。これはマネジャーにも人事にも、誰がどう押したか一切わからない仕組みになっている。これは、カケアイが、一人ひとりのマネジャーに対してマネジメント行動の変容を促す材料になる。
1on1に付随してマネジャーはメンバーにアドバイスを送ることができる。送ったアドバイスは、一定の条件を満たすと組織全体のマネジャー同士が活かせる資産になる。
・カケアイには、1on1以外にも中長期の成長支援を支える仕組みなど複数の機能があるが、コンセプトは 「人事ではなく現場のため、管理ではなく支援・自立、抽象的ではなく具体的、一律ではなく個別、測るではなく変える、クローズではなくオープン」なシステムである。
・現在は法人単位でのみ提供しているが、今後はチーム単位やマネジャー個人でも利用可能にし、企業の枠を超えたマネジャー同士の繋がりを生み出しマネジメントに関する情報を還流させると同時に、働く一人ひとりのもつ可能性がマネジャーの個人力に依存しない社会をつくる。
・メンバーからは、「上司との1対1の会話が楽しくなってきた」、マネジャーからは「コミュニケーションのズレが減った」などの声が上がっている。また経営視点でも、業績の改善や離職の減少、コスト削減の効果が出ている。
<受賞コメント>
環境が大きく変化している中、「現場のピープルマネジメント」という角度から社会へ貢献すべく、その一点にフォーカスし挑戦しています。同様の課題感をお持ちの方がいらっしゃれば、ともに学びながらサービスを磨いていくことが必要だと思っています。ご利用中の企業様、お問い合わせをいただくお客様からも、日々学ばせていただくことばかりです。グランプリ受賞に恥じないよう、しっかり頑張ります。ありがとうございました。
ファイナリスト
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
【タイトル】自然言語処理AI 『JEFTY』を活用した人事評価の不満解消支援
【概要】評価コメントから評価視点のズレを可視化、評価効率化と結果の納得感向上につなげる
プレゼンター:EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・アドバイザリー・サービス シニアマネージャー 吉田 尚秀 氏
ピープル・アドバイザリー・サービス シニアコンサルタント 加藤 雄平 氏
<ご発表内容>
・人事評価は重要であるがゆえに、不満も生じやすい。また件数が非常に多い場合もある。そこにAIを使うというのがテーマ。
・評価が甘かったり、評価すべきでない点を評価してしまったりしたケースでは、不満が生じる場合がある。このようなケースに対して、自然言語処理を用いたAIで、評価コメントの評価視点と評価制度の項目の一致度を算出できるようにした。これにより、評価すべき項目を評価していなかった、評価しなくていい項目を評価してしまっていた、などを未然に防げる。
・評価者ごとに評価制度に沿う度合いが異なるケースもある。AIでは、組織全体の評価視点の傾向と個人の評価視点を比較できる。個人や組織の評価傾向が掴めれば、制度変更や指導強化の必要性に気付ける。
・AIの判断に不安があるという声に対しては、人事のプロフェッショナルの判断を教師データとした機械学習により、プロフェッショナルが判断した多くの類似事例から人事評価を類推することで対応している。
・自然言語処理AI(JEFTY)を用いた評価コメントの分析によって、人が評価する限り避けて通れないズレを収束させ、不満軽減につなげることができると考えている。
・これまで評価コメントはあまり見られてこなかったが、このような方法を用いて「見られている」というプレッシャーが生じることでけん制機能が働いているように感じる。
ファイナリスト
株式会社ハッカズーク
【タイトル】アルムナイ(退職者)に特化した『Official-Alumni.com』が生む価値
【概要】企業とアルムナイの関係から生まれる価値で、退職による損失という社会課題を解消
プレゼンター:代表取締役 CEO 鈴木 仁志 氏
<ご発表内容>
・「退職による損失」という社会課題に対応するため、アルムナイに関する事業を行っている。2019年の退職者数は過去最多となり、企業により終身雇用の終わりが明言されるなど、アルムナイの重要性は高まっている。
・実際にアルムナイの再入社を促すカムバック採用実施企業は増加。ユニリーバなど、アルムナイを副業人材として生かす事例も。
・アルムナイとの関係は溜まり続けるストック型の資産であり、インパクトが大きい。これを活かすには、情報の可視化だけでなく、退職時のオフボーディングや退職後の関係構築プロセスをサポートすることが必要。
・アルムナイデータはゼロから作り上げるため、デジタルの力を活用しやすい領域である。
ファイナリスト
株式会社ミツカリ/株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティング
【タイトル】新規事業の成功確率を高める「アントレミツカリpowered by MURC」
【概要】データ分析と個別性の高い領域の知恵を融合した新規事業人材の発掘およびチームの組成
プレゼンター:代表取締役社長 表 孝憲 氏
<ご発表内容>
・新規事業を任せるべきイノベーション人材が不足していると言われている。この課題に対しミツカリでは、「ミツカリ適性検査」をもとに「アントレミツカリ」を提供している。
・「ミツカリ適性検査」では、一般的な適性検査と異なり、求職者側だけでなく求人企業側の社員が受検することを前提とした適性検査を提供している。この適性検査の18万人分のデータを新規事業人材の分析・発掘に生かすのが「アントレミツカリ」である。
・新規事業を成功させた起業家・新規事業チーム長のデータを分析した結果、新規事業人材の特徴を表すモデルが構築できた。また創業チーム内の性格の類似度や補完関係の分析も行っている。
・ユーザーからは「時間をかけて厳選した新規事業人材の80%以上をこのモデルで抽出できた」などの声が上がっている。
・分析でフォローできない部分を三菱UFJリサーチ&コンサルティングがフォローする体制を構築している。
・将来的に、社会全体の適材適所を実現するためにサービスを進めていきたい。
審査員長 講評
早稲田大学政治経済学術院 大湾秀雄教授
今回で3回目の審査となるが、個人的には今回が一番難しかった。ファイナリスト各社とも現在日本企業が直面している課題に真っ向からソリューションを提供するような提案をしており、どの企業のソリューションが広がっても、日本企業の競争力の改善や人材活用の面で非常にプラスになると感じた。非常に迷ったが、株式会社KAKEAIがグランプリとなったのは、様々な視点から見た場合のバランスや、実際に役立つという点で納得感が強かったためと考えている。中間管理職の研究を長年しているが、良い上司と悪い上司で、短期的には部下の生産性が1割から2割程度変わってしまう。長期的には、良い上司の下だと成長の幅も大きい。その点で、マネジャーの部下を支援する能力を引き上げることは企業の生産性へのインパクトが大きい。そこに取り組まれていることを評価したい。コロナの影響でコミュニケーションが希薄になる中で、こういった支援ツールの価値は高まっていると考えている。ファイナリスト各社において今後の改善を期待したい点としては、製品の導入によりどの程度の改善ができたかの実証結果を示した企業が1つもなかったことを挙げたい。新しい製品の導入にあたっては、当然効果検証を行う。製品の価値を伝えるために、改善効果のエビデンスを見せることは重要である。今後、新しい製品を出す上で、改善効果をデータで示せるような取り組みをしていただきたい。どの企業も非常に面白いプレゼンで、今後の日本企業の人事面での効率性の改善に大きく貢献していく製品だと感じた。
審査員コメント
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 岩本隆特任教授
株式会社KAKEAIがグランプリとなったが、僅差だった。各社異なる切り口で今の日本にとって重要な課題に切り込んでいて、どの切り口で見るかで審査の結果も変わってきたと思う。日本企業は課題があっても変われない状態が何十年か続いてきたが、今回のコロナの影響で一気にテクノロジーシフトせざるを得なくなった。ウィズコロナ、ポストコロナに向けてどのような経営をしていくべきかは様々議論されているが、テクノロジーは不可逆性を持っていて、一度使い始めると元には戻れないところがあるため、テクノロジーの活用はこのまま進んでいくと思う。その意味ではファイナリスト各社の活躍の場は広がっていくと思っている。人事は日本企業の中でもなかなか変わらなかった領域なので、各社とも日本企業を変革するエンジンとしてご活躍されることを期待している。
株式会社日立製作所 フェロー 矢野和男氏(東京工業大学大学院情報理工学院 特定教授)
ファイナリスト各社の熱の入ったプレゼンを聴いて、各社とも未知の分野で日々挑戦していることがわかった。特にグランプリとなった株式会社KAKEAIでは、様々な市場・ニーズに真摯に向き合い、応えようとしていることが伝わってきたため高く評価した。今後は、人事が変わるということを超えて、企業全体において、有形資産や財務指標を見てモノに投資するという時代から、ヒト・人的資本に投資する時代に大変革をしなければならないと考えている。これまではヒトを安く雇って、モノや設備・施設・装置に投資するということが当たり前で、今も企業の中にはその仕組みしかないのが実情だと思っている。ヒトに投資をする、あるいはヒトをさらに輝かせるためのこういったテクノロジーに投資をするという世の中にしていくために、企業が変わるとともに、こういったサービス・SaaSを提供していく側も大いに投資をさせることが必要だと思う。その意味でファイナリスト各社は日本を変えていくために先頭を切っていると思うので、ますます前面に出て、世の中を変えていってほしい。
早稲田大学理工学術院 創造工学部経営システム工学科 後藤正幸教授
それぞれに非常に際立った特徴を持った魅力的なテクノロジーを紹介いただいて、たいへん刺激になった。グランプリの株式会社KAKEAIは、オンラインでの仕事を余儀なくされている環境下でも人材マネジメントを強力にサポートすることが可能なプラットフォームであり、これまでの利用実績から見ても安定性が高いと言える。ただ、プレゼンでどのような世界観を作りたいかはよくわかったが、追加で知りたかった点としては、AIプラットフォームとして、どのようなAIの技術が活用され機能しているかがわかるとより良かった。株式会社ミツカリは、新規事業に適した人を膨大なデータから識別できるという点が魅力的で、強く推す審査員もいた。ただ適材適所といったときに、新規事業人材以外に適切な配置が難しそうな人材でも上手くいくかどうかについての検証や考察があればより良かったと思う。EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社は、自然言語処理や機械学習を効果的に活用する方法を具現化しようとしており、5年後・10年後が期待できる技術だと感じた。株式会社ハッカズークは、技術でアルムナイの繋がりをサポートするサービスが非常に良かったが、企業側だけでなくアルムナイ側にとってのベネフィットをどう考えるかがポイントだったと思う。例えば、早稲田大学では非常勤の先生を探すのにいつも苦労しているが、早稲田大学で学位を取った人がどこで活躍しているかのデータにアクセスできると、とても役に立つことは容易に想像できる。そのように、専門性の高い職種ですぐに使えるところがあるように感じた。総じてファイナリスト各社とも尖った魅力的なソリューションを提供されていてとても良かった。
日本大学経済学部経済学科 児玉直美教授(元 経済産業省)
ファイナリスト各社とも非常に面白いプレゼンだったと思う。ここでは株式会社ミツカリと株式会社ハッカズークについてコメントしたい。株式会社ミツカリは、新規事業を担う人を見つけるということは重要で、見つかると良いと思うが、スキルや性格など「今持っているもの」で見ている点が気になった。新規事業においては本人の意思や意欲がないと、能力が高くてもチャレンジングな状況の中で前に進んでいけないのではないかと感じた。例えば、社内公募のように企業側から新規事業を発信し、手を挙げるような仕組みを作ってもいいのではないか。社員の持っている情報だけで一方向的に選抜するのではなく、企業側からの情報提供に反応する人を見つけるようなシステムができるとより良いと思う。株式会社ハッカズークは、企業側のメリットはわかるがアルムナイ側のメリットがわかりにくいという指摘があったが、退職者の情報を一方的に企業が吸い上げるようなシステムにすると、アルムナイがメリットを見出しにくい。こちらも社内から、例えば調達情報などアルムナイが登録しておくと得になると感じるような情報を発信していけると良いのではないかと感じた。どちらも今まであまり見たことがないようなプロダクトで、企業や社会にとって必要なものだと感じるので、今後の展開に期待したい。
ピープルアナリティクス部門
グランプリ
ソフトバンク株式会社
【タイトル】経営戦略に沿ったピープルアナリティクスの実践
【概要】経営戦略に沿った採用・配置へのピープルアナリティクス具体的活用事例
プレゼンター:人事本部 戦略企画統括部 人材戦略部 御園生 銀平 氏
<ご発表内容>
・ソフトバンクは流通・出版事業から始まり、通信事業を中心に発展してきたが、2017年より「Beyond Carrier戦略」という成長戦略を掲げ、通信事業のさらなる成長と同時に、AI、IoT、ビッグデータなどの最先端のテクノロジーを駆使した新規事業の創出を目指している。また、「Beyond Carrier戦略」の加速を目的に、人材戦略として要員・スキル・マインドの新規事業へのシフトに取り組んでいる。この中で、ピープルアナリティクスチームとしては、特に要員・スキルの面でアナログHRだけでなく、定量的な要素での人材見える化など、デジタルHRも活用することでの進化に取り組んでいる。
・従来はアナログな経験・主観・イメージ・勘が判断に際して大きなウェイトを占めていたが、今後はアナログとデジタルの融合を掲げ、勘・経験の根拠化・修正や、アナログだけでは気付かなかった示唆も踏まえ、判断精度の向上を行っていきたいと考えている。
・分析の対象とするデータは既存の人事情報に加え、株式会社ミツカリの性格特性データが中心で、今後は、行動データ、パルスサーベイなど今までにないデータの活用も検討している。
・様々な取組を行っているが、その中でも今回は他社も参考にしやすい、採用に関する分析事例を共有する。ソフトバンクでは、エントリーシートや動画面接の評価へのAI導入など、あらゆる採用プロセスの中でテクノロジーを活用している。ピープルアナリティクス活用事例として「新卒社員の初期配属」「新規事業担当部署の中途採用」の意思決定サポートの内容を紹介する。
・新卒初期配属では、本人の希望と面接官による判断を中心にした配属調整を行っていたが、今回新たに配属候補先への本人の性格フィットスコアを算出し、スコアも参考に配属調整を行った。性格フィットスコアは部門ごとの活躍層と非活躍層を定義して目的変数とし、性格特性データを説明変数としてモデリングし、算出した。算出したスコアは、分析精度、結果の解釈、運用方法等、様々な観点で検証が必要であったため、経営層をはじめ、社内のデータサイエンティスト専任部署、株式会社ミツカリ、人事内の他のチーム等と慎重に確認を行った。スコアについては、教師データではないデータで確認したところ、特に非活躍層の予測精度が高いことがわかった。この結果に沿って昨年度からトライアル運用を実施しており、今年度は本格運用を開始している。
・新規事業担当部門の中途採用を拡大する予定があり、人材のミスマッチが発生することを想定し、先手を打った対策を実施している。この取り組みでは新規事業担当部門への性格フィットをミツカリで可視化するとともに、履歴書の情報や面接官の判断とあわせて総合的に合否を判定している。分析結果はダッシュボード化し、面接時に活用している。
・よくある質問として、「AIや機械学習で予測した結果だけで判断すると、社員の納得感が得られないのではないか」というものがあるが、ソフトバンクではそれだけで判断はしておらず、予測結果を定量的要素として参考にすることで、客観的で公平な意思決定に繋げるよう意識している。また、個人情報の取扱いの観点から、法務部門・セキュリティ部門と連携し、利用の目的・範囲を明示し、同意した人のみ性格特性アセスメントを受検するものとしている。
・今後の展開として、採用の精度向上、配置の最適化やパルスサーベイを軸にしたコンディションの可視化に向けた検討を進めている。
<受賞コメント>
グランプリをいただき、ありがとうございます。これまでソフトバンクとして取り組んできた内容が評価いただけたことは本当に光栄だと思っています。今回の受賞に甘んじることなく、今後もピープルアナリティクスの発展のためにも、社内、また業界内でも取り組みを続けていきたいと考えております。
ファイナリスト
Visionalグループ
【タイトル】組織と社員のコンディションをタイムリーに可視化する3つのサーベイ
【概要】企業成長や環境変化に対応した、個人・組織のコンディション把握方法のご紹介
プレゼンター:タレントマネジメント室 室長 小上馬 麻衣 氏、タレントマネジメント室 ピープルアナリティクス 友部 博教 氏
<ご発表内容>
・2009年に株式会社ビズリーチとして創業し、2020年にホールディングカンパニーのビジョナル株式会社を設立して、現在は計6社のVisionalグループとして活動している。
・今回はグループ全体として、組織と社員のコンディションをタイムリーに可視化し、人事施策およびラインマネジメントのアクションにつなげる3つのサーベイを実施したため、ご紹介したい。
・この取り組みの背景には「事業成長・多事業化により、3年前と比較して1.5倍の1,000名強の組織への拡大」「グループ経営体制への移行に伴う組織の新設・統廃合や大規模異動」「COVID-19の世界的流行下における勤務スタイルの変化と健康管理の重要度の向上」の3点がある。
・この取り組みでは各サーベイを点にせず、線にすることを目指し、サーベイを体系的に整理した。ここでは対象と目的を明確化し、漏れなく重複していない設計となるよう気を配った。また、タイムリーにフィードバック・アクションに繋げるためのPDCAを高速で回せるようにすることも設計段階から意識した。
・データ分析体制として、人事・労務・給与・評価などのデータを一元化し、随時蓄積・更新するとともに、BIツールで可視化し、意思決定に活用している。またこのデータベースの整備により、サーベイ実施・分析のリードタイムが短縮した。
・1つ目のサーベイはパルスサーベイの「1mc(1Minute Check)」で、やりがいと能力活用に関する3つの質問から、メンバーの仕事への取り組み具合を把握するものである。サーベイからアクション実施まで3日程度を想定しており、毎月実施している。回答推移から要フォロー者を予測して上長にフィードバックし、1on1などに活用している。
・2つ目のサーベイはパルスサーベイの「在宅勤務時コンディションチェック」で、社員の生活習慣・体調・コミュニケーション量などに関する7つの質問から、コンディションを把握するものである。サーベイからアクション実施まで2日程度を想定しており、隔週で実施している。結果は組織内メッセージのチューニングや勤務体制ガイドライン制定に活用している。
・3つ目のサーベイは組織診断サーベイの「V-BASE(Visional Biannual Action-oriented Survey for Employee)」で、組織コンディションを把握するために、半年に一度行っている。エンゲージメント・働き甲斐・パフォーマンスの指標とサーベイの設問との相関を分析し、組織課題の明確化に利用している。
・3つのサーベイと人事データベースの連携により、Visionalグループのピープルアナリティクスを推進する上での基盤が構築できたと考えている。
・今後の展開としては、分析とアクションを紐づけ現場での実行を進めるために、採用との連携を進めるなど体制の強化を図っていく。
ファイナリスト
三菱ケミカル株式会社
【タイトル】ウィズ・コロナを見据えたテレワークでの新しい働き方による生産性向上と健康維持
【概要】緊急事態宣言下でのテレワーク・サーベイ結果の分析による洞察と課題解決アプローチ
プレゼンター:人事部 労制・企画グループ 大村 大輔 氏
<ご発表内容>
・ウィズ・コロナを見据えたテレワークでの新しい働き方と健康維持のあり方を探るため、緊急事態宣言下で行ったテレワーク・サーベイのデータを機械学習・統計解析を用いて解析した。
・健康と働き方が生産性にどう影響を与えるかを検証するため、データを学習用とテスト用に分割した上で、生産性を目的変数、健康と働き方に関する12項目を特徴量としたモデルを構築した。
・機械学習アルゴリズムには勾配ブースティングの一種であるXGBoostを用い、特徴量の重要度としてFeature Importance、Permutation Importance、SHAPを、精度の評価指標としてRMSE、Accuracy、重み付きKappa係数を算出した。
・解析の結果、「精神の健康状態」の特徴量の重要度が高く、次いで「職場コミュニケーション量」「翌日対応の有無」「身体の健康状態」「会議の数」「出社頻度」などの重要度が高かった。このうち「精神の健康状態」「職場コミュニケーション量」「身体の健康状態」「会議の数」は生産性と正の相関が、「翌日対応の有無」「出社頻度」は生産性と負の相関が見られた。
・職種別では、製造・生産技術、保全エンジニアリングはテレワークの実施頻度が低いことがわかった。また製造・生産技術、保全エンジニアリング、研究開発はテレワークであまり生産性が上がっていないことも示唆された。これをもとに職種別の生産性と出社頻度の関係を調べたところ、製造・生産技術、研究開発はテレワークでの生産性向上があまり期待できない一方、保全エンジニアリングはテレワークで生産性が上がる可能性が出てきた。
・以上の結果から、テレワークが中心の働き方においては、職場コミュニケーション量、睡眠、食事、運動に意識して取り組むことで、心身の健康の維持、生産性の向上につながる可能性を見出した。また、製造・生産技術、研究開発など職種によっては現時点ではテレワークによる生産性向上があまり見込めないものがあるため、そのような職種でもテレワークにより生産性が向上する環境の構築を行っていく必要があると判断した。
・分析結果をもとに、職場コミュニケーションの活発化、単身赴任の解消、自宅での仕事環境のサポート、健康経営の推進といった施策を検討している。
ファイナリスト
LINE株式会社
【タイトル】人事データ一元化による組織の可視化と現場サポート力の向上
【概要】人事データを一元化し経営や現場、HRBPが必要とするデータの提供を自動化/高速化させた
プレゼンター:Employee Success室 佐久間 祐司 氏
<ご発表内容>
・LINEでは直近3年の平均社員増加率が30%、定期発令が年24回、稼働中のサービスが約100と、急激な量的拡大と質的な複雑化が起こっており、高速な組織再編が行われている。一方でデータは散在している状況だった。
・そのような中で、課題として、求められるスピード感での現状把握と組織ごとの実態に即した施策展開が困難であることが顕在化してきた。
・課題に対応するため、個々の人事関連システムを維持したまま、統合データベースを構築し、役職者がメンバーの人事情報を閲覧できる「Personal Karte」、組織の状態を可視化する「HR Dashboards」、データ分析・仮説検証のための「Analysis DB」の3つのアウトプット先を整備した。
・「Personal Karte」は異動前後や評価の前後等で、日常的に役職者が閲覧するツールとして浸透している。
・「HR Dashboards」はTableauを活用し、現在200以上のダッシュボードが構築・運用されている。自動更新が可能となったことで大幅に業務が効率化された。
・「Analysis DB」は主要な人事関連データが一元化されており、SQLで呼び出しが可能になっている。下処理が済んだ状態で自在にデータにアクセスができ、アドホックな分析をスピーディに実施できるようになった。また、ある組織で行った分析を別の組織にも適用してみる、といった展開性も飛躍的に向上した。
・3つのアウトプット先はデータの機微度に応じてアクセス権限を制限し、個人情報の保護に気を配っている。
・人事、社内IT、開発の3つの組織が協働してシステムの開発を推進する体制となっている。
・人事データを一元化したことで、定型データは人手を介さずにリアルタイムで閲覧が可能となり、組織の可視化が大きく進展した。また、仮説検証のスピードが上がり、各組織へのサポートの精度とそのために割けるリソースが向上した。
・現状は、スピーディな可視化を達成して組織課題の解決に取り組んでいる段階。今後は個人のエンパワメントにも取り組んでいきたい。
審査員長 講評
早稲田大学政治経済学術院 大湾秀雄教授
HRテクノロジーソリューション部門と同様に、今回が一番難しい審査であった。全体的に質が上がっているが、フォーカスしている点が異なるため、票が割れ、非常に難しい判断だった。グランプリのソフトバンク株式会社は、採用・異動という多くの企業が関心を寄せている難しい問題に対して、果敢に取り組んだことで他社の参考となった点を評価した。現在世の中では、ジョブ型雇用が進み、人事が分権化していく中で、今までのような異動のさせ方ができなくなってきていると感じている。また採用も異動もマッチングの問題だが、どういうマッチングがいいかを考えることが非常に重要と考える。ひとつ注文をつけるとすれば、社員の成長のためにどういった配置が良いかという分析も加えてほしい。今どこに配置すればパフォーマンスが上がるかという視点と、将来ハイパフォーマーになってもらうために今どういう経験を積ませるかという視点は異なる。長期的には成長性も重要なので、今後はそういった分析も加えていってほしい。三菱ケミカル株式会社は2回目の挑戦で昨年よりも非常に良くなっていた。ただ、機械学習や高度な統計分析は強力だが、狙いをきちんと合わせないと効果的な分析はできない。今回は製造・生産技術や研究開発といった職種に焦点を当てていたが、これらは装置を使うためあまりテレワークができない職種である。テレワークで業務の多くができる職種と比較する議論はあまり意味がないのではないか。業務の多くをテレワークで実施できる職種にフォーカスし、テレワークで可能な業務の生産性をどれだけ上げるかに集中して分析したほうが良かったのではないかと思う。LINE株式会社とVisionalグループについては、データ分析のための環境整備はかくあるべしといった理想の姿で、非常に感銘を受けた。多くの企業がこのような体制を整えるべく、目指すべき姿だと思う。ただし環境整備は出発点であり、それを使ってどのように経営課題を解決していくかが重要である。発表内容は素晴らしかったが、もう少し先を見せてほしかったと思う。経営課題の改善に繋がることは予想できるが、そのエビデンスを見せてほしい。どのような分析で効果が出たか、どのような形で社内の意思決定が良くなったかなどを示すことで、環境整備の効果を評価していただきたかった。ファイナリスト各社とも他社にとって参考になるような分析や形を紹介していただいたことに感謝したい。ぜひ来年も挑戦していただきたい。
審査員コメント
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 岩本隆特任教授
ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会のメンバーとは5年前からHRテクノロジー普及の活動をしているが、5年前は経営課題からというよりも、アーリーアダプターの方がやってみようとしていた側面があった。ファイナリスト各社のプレゼンからは、経営課題を解決するためにピープルアナリティクスが使われていることがわかり、ようやく日本もそういったフェーズに入ったのかと感じた。昨年もコメントしたが、ピープルアナリティクスは日本が世界で一番というほどに遅れている。その中でファイナリスト各社は日本の先頭を走っていると思うので、こういった場だけでなく、様々な場で日本企業全般を引っ張っていってほしい。近年では、投資家からの人材情報開示への圧力が高まり、日本の大手企業の働き方改革や人材マネジメント改革のプレスリリースが増えている。ファイナリスト各社には、そういったプレスリリースなどでも成果を発表していってほしい。またソフトバンク株式会社はHRテクノロジーソリューション部門に次いで2度目のエントリーだと思うが、グランプリとならなかった各社も2回目、3回目とチャレンジしてほしい。
早稲田大学理工学術院 創造工学部経営システム工学科 後藤正幸教授
いずれもレベルの高い発表で、審査員一同悩んだ。LINE株式会社とVisionalグループはデータ分析のための環境構築がテーマであり、三菱ケミカル株式会社とソフトバンク株式会社は個別の課題に対する分析事例となっていて、ベクトルが異なるため審査が難しかったが、今回はピープルアナリティクス部門ということで、ソフトバンク株式会社の実際に分析を進めている点が評価されたと認識している。その中で三菱ケミカル株式会社については、テレワークでの生産性に関する分析はAfterコロナに親和性があり、生産性が下がったチームの原因などに踏み込んだ分析ができるとより良かったかと思う。問題設定としてAfterコロナにおいても重要なもののため、ぜひ分析を続けていただきたい。LINE株式会社については、可視化の重要性を踏まえると、このような取り組みは様々な企業で参考になるものだと思う。一方でアナリティクスの個別の事例についてもご紹介いただけると良かった。Visionalグループについては、コンセプトが秀逸であった。さらに具体的に活用できた分析事例や方法論をご紹介いただけるとより良かったと思う。ソフトバンク株式会社については、フィットスコアをどう推定するかが非常に重要で、異動による因果効果は実際にやってみなければわからない部分もあると思うが、統計的処理により因果効果を正しく推定するという因果推論のフレームワークについて説明を加えていただくとさらに他の企業の参考になったかと思う。いずれにしても、各社とも素晴らしい発表だった。
日本大学経済学部経済学科 児玉直美教授(元 経済産業省)
大変素晴らしいプレゼンで、面白かった。まず全体として、成長企業が多かったこともあり、現在の日本においても、人がどんどん増えていき、新しい仕事に誰をアサインするか悩んでいる企業が多数あることが興味深かった。ただ、新しい人や仕事に関することは、なかなか過去のデータからではわからないと感じる。データは過去と同様の事象についてはよく予測できるが、過去に起こっていないことに対しては脆弱だと考える。そのため、新しいことに対する解決法として足りない部分があるとすればその点ではないか。その場合にどうしたらいいかは誰も答えを持っていないが、例えば新しい仕事への配置では、社員の潜在的なスキル・欲求をデータとして取得するシステムが重要ではないか。社内公募などによる社員からの情報発信のインセンティブとともに、潜在的なデータを顕在化させる仕組みが考えられると良いのではないかと思う。今年は審査基準に社員の理解を得られるものかという視点が追加されたこともあり、データ取得の同意がある対象のデータしか利用できない場合があると思うが、因果推論の観点では、同意した社員のデータの傾向は必ずしも全社員に展開できるものではない。このとき、使っているデータがどのようなデータであるかに注意して解釈し、全ての人に適用できると思い込まないようにする必要がある。個別には、LINE株式会社とVisionalグループは社内のニーズをもとにデータベースを構築するという地に足のついたテーマだと感じた。ただ具体的な社内の課題に対する分析があるとより良かった。三菱ケミカル株式会社は、テレワークというテーマは時宜を得ていた。因果推論の観点からは、同じ部署の中でテレワークをする人としない人に分けて検証するなどしたいが、それが不公平感の問題で難しいとすると、例えば全員にテレワークを許可した上で一部に追加的にテレワークの呼びかけを行うなどすることで、より因果関係の特定に近付けると考える。