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2020.10.02

【開催レポート】9/16 (水) 2020年9月度ピープルアナリティクスラボ

ピープルアナリティクスの理論の実践

ピープルアナリティクスラボとは、ピープルアナリティクスの概要・潮流・有用性を理解し、自社の取り組みに活用していただく(または委託の判断軸を持つ)ための会員向けベーシック講座です。2020年度のピープルアナリティクスラボは「より科学的・高品質なPA」を目指したテーマで活動していきます。2020年9月度は「ピープルアナリティクスの理論の実践」をテーマとして開催しました。

オンラインで出席いただいた会員の皆様に向けて、協会上席研究員の入江さんから「ピープルアナリティクスにおける研究知見との付き合い方~実務家としての実践例~」、東京大学大学院の正木さんから「アカデミックの立場から見た協働の利点と実現のポイント」と題して、実務者とアカデミックの協働のポイントや、理論や学術的な方法論をどのように実務に活用しているかについてお話しいただきました。

 

ピープルアナリティクスにおける研究知見との付き合い方~実務家としての実践例~

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HR Analytics & Technology Lab 所長 入江 崇介 氏

 

入江さんからは、企業における研究員としてのご経験をもとに、実務での研究知見の活用について講演いただきました。

 

■参考にしている領域

・自身は進化心理学・心理統計学をバックグラウンドとしているが、ピープルアナリティクスには経済学、経営学、統計学、情報科学、教育学など、ひとりではカバーできない多様な領域が関わっている

・国内外の経営学・産業組織心理学系、技術・統計系、基礎心理系の学会やカンファレンスに参加・参照し情報収集を行っている

・地道な学習を積み重ねる他、新規採用や、既存メンバーの社会人大学院通学などで、研究所でカバーする領域を拡大してきた

 

■研究知見の活用例

・「背景」「目的」「方法」「結果」「考察」といった論文の構成に見られるような研究の流れはピープルアナリティクスの進め方に応用できる

・研究論文そのものも、先行研究のレビュー、仮説の構築方法、結果のまとめ方、研究の限界の理解といった点で参考にすることができる

・研究の知見を活かすにあたって、理論・心理尺度・方法論・技術などを参考にしている

・方法論として、サーベイ・リサーチは、データを取得して重回帰分析を行うことなどを含み、ピープルアナリティクスで馴染みが深い。定性研究は、グラウンディッド・セオリー・アプローチなどを含み、理論の生成に利用される。⼼理測定論は、測定、分析、学習方法などの磨き込みに利用できる。シミュレーション研究は、実験やデータ収集が難しい場合などにも利用できる

 

■研究知見活用のポイント・留意点

・学術論文(査読付き)は、一定のクオリティが担保されているが、完全ではないため、背景知識と批判的な目を持って読むことが重要。できれば複数人で議論するとよい

・研究知見は新しいほど良いものであるとは限らない。また古いもので反証されているものもある

・サンプルの偏りや異なりに起因して、個別の研究結果が自社にはあてはまらないこともある

・実証的な検証の手続きが不十分である可能性もある

・「内向性」など定義が様々ある用語もあるため、確認することが大事

・学界との付き合い方としては、特定の研究者と人脈を築くことや、学会に参加・発表・論文投稿することなどが挙げられる。積極的に関わることで接点が増えるので、できることからスタートするとよい。関連領域で研究してきた人材を雇用する、パートナーとして迎えることも推奨

 

■まとめ

・ピープルアナリティクスにおいて、人事データに対する予測モデルの適用や統計的な効果検証など技術的な部分は進みつつあると思われるが、学術的な理論の実務への応用や実際の因果関係の把握は遅れていると感じる。この点で研究知⾒を活⽤することで、より⾼品質のピープルアナリティクスを実現できるのではないか

・「知の利用者」である実務家と「知の創出者」である研究者のコラボレーションのため、お互いに何を提供できるかを考えることが重要

 

 

アカデミックの立場から見た協働の利点と実現のポイント

東京大学大学院 人文社会系研究科 正木 郁太郎 氏

 

正木さんからは、組織行動や人材に関する学術研究と企業との共同研究のご経験をもとに、学術研究者と企業の協業について講演いただきました。

 

■協業の事例の紹介(複数事例をもとに作成した架空のもの)

・あるサービス業のダイバーシティ推進事例では、女性活躍推進が進まず、その原因が特定できないという課題があった。そのため、研究知見からサーベイ(アンケート調査)を設計し、人事データと接合してデータ分析を実施して、上司・部下のコミュニケーションギャップや組織風土の問題を可視化した。この事例では「何が起きているか?」の仮説生成から始め、ダイバーシティの理論的知識を用いて問題の構造化を行った

・別の製造業の人事データ分析事例では、人事データの蓄積は進んでいるが活用しきれておらず、採用や配置の改善に活用したいという要望があった。そのため、理論を交えてその企業でどのような人材が活躍するかを整理し、既存データの分析と不足データの収集を行い、特定の人材が活躍するロジックを再検討した。この事例では組織行動に関する理論的知識や概念とデータを対応づける知識が活用された

 

■研究者との協働が有効な場面・有効でない場面

・学術研究者のモチベーションは、「未知を明らかにしたい」というところにあると言える。様々な現象が「なぜ起きているか?」に関心がある

・学術研究者は、実務家と比較して、先行研究の知識、分析・データ処理スキル、領域に固有の現象の捉え方や切り口などについては得意だが、一方で「いま現場が困っていること」を知らないことが多い

・協働が有効と感じるのは、「新しいこと」や「変えること」に関する場合である。そのような場合は問題が複雑で、精度の高いエビデンスや説明が求められるため、研究知見を活用しやすい

・一方で協働には、スピード感を損なう可能性、価値観や背景が異なる学術研究者と企業が関わることによるコミュニケーションの難しさといったデメリットがある

 

■プロジェクトの推進にあたっての課題

・協働で最大の障壁だと感じるのはコミュニケーションの問題である。特にスピード感について、「成果を論文として発表するための研究プロジェクト」という意識で臨むと、社会科学ではひとつの論文発表までに2~3年かかることも多いため、スピードが非常に遅くなりがちである。また、精度か速度か、冗長さか簡潔さか、専門用語か現場の言葉かといった点でコミュニケーションの問題が生じやすい。都度互いに前提を確認し、コミュニケーションを取る必要がある

・プロジェクト推進においては、利害が異なることを前提に、共通目的を明確に持つことが必要である。モチベーションとして、実務家は「解決したい問題がある」「利益を生みたい」といったもの、学術研究者は「学術的に価値ある(新規性のある)研究・発見がしたい」といったものを持っている。これが対立してしまう場面もあるため、すべて俎上に載せ、調整する必要がある。研究対象となる問題やフィールドは共有できるため、何を対象に、どんなことを解決したいのかを共通の目的として明示することが有効である

 

■成果のアウトプット方法

・学術研究を活用しやすいアウトプットは、現象や問題の分析・診断である。起こっている現象や問題を分析し、それに対して診断を下すことを得意とする。一方で学術研究は施策をあまり持たず、また現場によって事情が異なるため、「答え」を出すことは苦手である。「ダイバーシティ推進のために、この会社で明日何をすればよいか」といった問いには答えにくい。そのため、実務家・学術研究者が知識を持ち寄って「一緒に考え、協働する」という姿勢が重要である

・研究者の一番のインセンティブは、データを学術論文や学術書としてまとめるような「学術利用」を行うことである。これは企業側としても、取り組みの意義や信頼性を主張する機会になる。企業側に不安が大きい場合もあるが、特にサーベイデータを使う場合、公開される情報はかなり少なく抽象的で、不安要素は少ないのではないかと考えている。人事データなどの客観情報については、学術的価値が高い一方でセンシティブなデータでもあり、やや扱いが難しいが、データの抽象度を上げて利用するなどの方法を取ることがある。この利用方法については、まだ定石が確立されているわけではない

・実務家のインセンティブはプロジェクトの実施と企業内での報告や問題解決にあり、学術研究者のインセンティブはその後の学会発表や論文化・書籍化にある。この違いを理解し、双方のインセンティブを十分に満たせるようにすることが重要

 

開催概要

日時:2020年9月16日(水)17:00〜18:30

会場:オンライン (Zoom)

参加者:40名 ※法人正会員のみ

 

講師:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HR Analytics & Technology Lab 所長  / 協会上席研究員

   入江 崇介 氏

演題:「ピープルアナリティクスにおける研究知見との付き合い方~実務家としての実践例~」

 

講師:東京大学大学院 人文社会系研究科

   正木 郁太郎 氏

演題:「アカデミックの立場から見た協働の利点と実現のポイント」

 

 

主催・問合せ先

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 事務局

e-Mail:info@peopleanalytics.or.jp

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