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2020.12.08

【開催レポート】11/19 (木) 2020年11月度ピープルアナリティクスラボ

HRアナリティクスの実践と理論~企業現場とアカデミア目線から~

ピープルアナリティクスラボとは、ピープルアナリティクスの概要・潮流・有用性を理解し、自社の取り組みに活用していただく(または委託の判断軸を持つ)ための会員向けベーシック講座です。2020年度のピープルアナリティクスラボは「より科学的・高品質なPA」を目指したテーマで活動していきます。2020年11月度は「HRアナリティクスの実践と理論~企業現場とアカデミア目線から~」をテーマとして開催しました。

 

オンラインで出席いただいた会員の皆様に向けて、アクセンチュア株式会社での実践と慶應義塾大学大学院での理論研究の実績のある協会上席研究員の佐藤さんから「HRアナリティクスのこれまでとこれから~実践と理論を兼ね備えた目線から~」と題して、企業現場とアカデミアの両方の目線からアナリティクスのこれまでとこれからについてお話しいただきました。

 

HRアナリティクスのこれまでとこれから~実践と理論を兼ね備えた目線から~

慶應義塾大学大学院SDM研究科 特任助教 佐藤 優介 氏

 

■実践に生かした理論

・研究においては、法則が原理を発見・解明するための「第1種基礎研究」と理論や法則を活用・実践する「第2種基礎研究」があり、自身は「第2種基礎研究」を行っている。

・HRM(Human Resource Management)におけるハーバードモデルでは、インプット→プロセス→アウトプットの流れを整理しており、アウトプットの中に従業員のコミットメントや従業員の幸福(ウェルビーイング)が含まれている点が自身のやりたいことに合っていると感じ、関連する研究を始めた。

・デイビット・ウルリッチは「人事の4つの役割」として、「戦略実現パートナー」「実務推進パートナー」「従業員パートナー」「理念・バリュー実現パートナー」を挙げており、この4つのバランスが重要だと考えている。

・研究だけでなく企業のレポートも参考にしている。例えばリクルートの就職みらい研究所が発行している就職白書では、共分散構造分析を用いて、採用コミュニケーションと内定先についての理解、就業レディネスの関係や、就業レディネスと入社後の行動・効力感の関係などを分析している。

・採用コミュニケーションに関する学術的理論としては、RJP(Realistic Job Preview)理論があり、RJPは「現実的な仕事情報の事前提供」を指す。これにより、入社後の幻滅を予防する「ワクチン効果」、自律的なミスマッチ抑制の「自己選抜効果(セルフスクリーニング効果)」、入社後のコミットメントを高める「コミットメント効果」、入社後の働くイメージの明確化による「役割明確化効果」があるとされている。なおRJPの導入にあたっては、5つのガイドラインが提示されている。

・組織開発には「診断型組織開発」と「対話型組織開発」があり、「診断型組織開発」では変革にあたってデータを重視する。有効なデータの収集による問題の原因の把握と問題解決が変革を構成するとされる。特に大規模な組織ではサーベイなどによるデータの収集と分析が重要と考える。

・ダニエル・キムの組織の成功循環モデルでは、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」のサイクルの重要性が主張されている。グッドサイクルを起こすために、まず「関係の質」を改善すべく、お互いに尊重し、一緒に考える姿勢が必要である。

・採用の際には、ユーザーエクスペリエンス(UX)の理論も活用した。UXのハニカム構造などが参考となる。UXに関する質問表も関連の論文に記載されている。またラーニングエクスペリエンスの研究は研修などに応用できる。

・入社後、組織になじんでいくプロセスを考える際は、ジャーニーマップを作成したり、組織社会化・組織適応の理論を参照したりした。ここでは組織参入前後のアクションが離職意思などに与える影響などが分析されている。

・従業員のエンゲージメントと企業の成長率・利益率には相関があるとされており、エンゲージメントを高める施策の根拠となっている。エンゲージメントの共分散構造分析を行った研究では、上司とのコミュニケーションや職場における意思決定への関与が従業員エンゲージメントに影響するとされている。

・自身の学術的な専門はシステムズエンジニアリングの中のアーキテクチャ設計に置いており、社会システムとしての組織の設計・開発を標準プロセスに則って行うべく研究している。SysMLというアーキテクチャ設計の言語モデルを組織に当てはめ、要求定義・実装を進める手法を採っている。

 

■今後のあるべき人事の姿

・テクノロジーによって、企業のあり方や働き方が大きく変わろうとしている。これは当然人事もキャッチアップしなければならない。デジタル化(DX)に経営層が取り組んでおり、これに対応していく必要がある。自身も日本ディープラーニング協会のG検定を取得し、業務への活用を検討した。そのような資格の取得もテクノロジーのキャッチアップに有効だと思っている。

・これからの人事は、社内外の人材の流動性の変化、従業員のスキル再構築などにも配慮していく必要がある。また業務の実行は自動化し、戦略および分析が主な業務としていくことになるだろう。

 

■人事に必要なスキル

・HRアナリティクスは学術的には、データに基づいた意思決定を行うことでビジネスインパクトをもたらす人事業務とされている。人事データ活用は、ここ数年でデータの多様化やモデルの精度向上に起因するピープルアナリティクスの隆盛により、高精度のジョブマッチングや離職防止施策の立案が可能になったことで大きく変わり始めていると言える。

・データ活用の発展段階は、「フェーズ1:分析可能な既存データの分析」「フェーズ2:未整理データの統合・分析」「フェーズ3:新しいデータの収集・分析」の3つに分類できる。まずはスモールスタートで成功体験を積み上げ、徐々に進めることが重要だと考える。

・人事データ分析活用の成熟度レベルは、「経年比較」→「ベンチマーク比較」→「要因分析」→「予測分析」といった形で進んでいくが、予測分析レベルまで達している企業は少ない。一方で未着手企業と高度な分析に着手している企業の差は拡大している。

・HRアナリティクスにおいて、アナリティクスに長けた人事担当者の不足が指摘されている。ただしHRアナリティクスにおいてビジネスインパクトをもたらすために高度な統計スキルは必要ないとされている。まずは手元のデータとExcelでの分析から始めることが重要である。また人事の専門家がHRアナリティクスに関与しない場合、解釈の誤り等が発生することが懸念されている。

・HRアナリティクスの実施・成功に向けては組織横断的にデータを収集できる必要があり、組織の上位層の理解・信頼が重要となる。

・HRアナリティクスの分析設計フレームワークを構築した。ここでは組織・チーム・社員といった分析粒度や、業績・事業貢献能力・組織能力・施策の因果・相関分析について整理している。またHRアナリティクスのユースケース・レポートも行っている。

・HRアナリティクスの進め方として、まずは組織状態の可視化と課題仮説の抽出が第一歩となる。これをもとに課題仮説の検証を行い、施策・アクションに繋げ、最終的にはHRアナリティクスにもとづくHRテクノロジーとしてシステム・プロセスを構築していく。

 

開催概要

日時:2020年11月19日(木)15:00〜16:30

会場:オンライン (Zoom)

参加者:40名 ※法人正会員のみ

 

講師:慶應義塾大学大学院SDM研究科 特任助教 佐藤 優介 氏(協会上席研究員)

演題:「HRアナリティクスのこれまでとこれから~実践と理論を兼ね備えた目線から~」

 

主催・問合せ先

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 事務局

e-Mail:info@peopleanalytics.or.jp

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