【開催レポート】6/17 (木) 6月度ピープルアナリティクスラボ「PAの実践:基本から最前線まで」
PAの実践:基本から最前線まで
ピープルアナリティクスラボとは、ピープルアナリティクスの概要・潮流・有用性を理解し、自社の取り組みに活用していただく(または委託の判断軸を持つ)ための会員向けベーシック講座です。2021年度のピープルアナリティクスラボは「実践」をテーマに、実践事例や最先端の調査の共有等を行います。2021年6月度は「PAの実践:基本から最前線まで」をテーマとして開催しました。
オンラインで出席いただいた会員の皆様に向けて、協会上席研究員の入江さんから「ピープルアナリティクスの基礎の振り返りと応用例の紹介」、同じく協会上席研究員の中村さんから「ピープルアナリティクスの落とし穴」と題して、ピープルアナリティクス実践の全体観や各社での実践を踏まえた最近の取り組みについてお話しいただきました。
■基礎の振り返り
・人事データ活用の実践ハンドブック執筆の動機は、「案外、シンプルな人事データ活用の観点が見落とされている。多くの方に、あらためて”シンプルな人事データ活用”を知っていただきたい」ということ。ピープルアナリティクスやHRアナリティクスと言うと「高度」なイメージになってしまい、シンプルな取り組みが見逃されているのではないか。
・人事データ活用の実践ハンドブックでは、人事の業務領域別の分析例を、「なぜ、そのような分析を行うのか」といった考え方まで紹介している。
・ピープルアナリティクスは、概ね「質の良いデータを生み出す」「データを使える状態にする」「データからインサイトを抽出する」の3つに関するツールの組み合わせで実施できる。
・ピープルアナリティクスでは、ドメイン知識に裏付けられた課題設定が重要である。経験的に、良い課題設定ができていると、シンプルな方法でも成果が出やすい。
■応用例のご紹介
Case1:マネジメント力向上のための360度サーベイの活用
・360度サーベイ(多面評価)を活用する事例が近年増えている。これを利用してハイパフォーマー分析を実施するケースを紹介する。このケースでは事前に「コーチング型マネジメントのほうが遂行型マネジメントより良い」という仮説を設定し、仮説が支持されればコーチング型マネジメントを横展開し、予想外の結果であれば原因を探求した上でアクションを導出する流れを想定している。
Case2:チーム力強化のための360度サーベイの活用
・Case1とCase2で、目的が変わればデータの扱い方も変わることを示す。このケースではチーム力強化のために、チームメンバーの能力の高低よりもばらつきが成果と関係することを検証した。また具体的なアクションに向けて、風土改革によって能力のばらつきが及ぼす負の効果を低減できることを示した。
Case3:学習効果向上のための学びの多様性の探求
・このケースでは「個人の特性により、同じ研修からでも、学びが異なるのではないか」という仮説をもとに、個人の発想・遂行スタイルに着目した。実際にこのスタイルによって、行動や考え方の変化の認識が異なることを可視化できた。なお、同じ分析結果を目にしても人によって解釈・結論は異なり、結果として異なった打ち手につながることがある。「データを元に、人が意思決定を行う」ピープルアナリティクスにおいて、この観点は重要である。
■まとめ
・ピープルアナリティクスで、課題解決につながるような良い結果を得るためには、中長期的な取り組みが重要となる。
・課題に向き合うと、そもそもピープルアナリティクス以外の施策の優先度が高いこともある。ピープルアナリティクスは課題解決のための一手段であり、その他の方法がフィットすることもある。
ピープルアナリティクスの落とし穴
日本電気株式会社(NEC) Recruiting Expert 中村 亮一 氏
■データ活用事例の紹介
・より強い組織づくりのサイクルは「測る」「分析」「改善」である。自社ではサーベイを行い、またBIツールによる可視化、AIによる課題設定の最適化、因果分析等を行っている。
・具体的な成果としては、ミーティングの感情分析を用いた改善施策を打ってエンゲージメントスコアを2年間で29%改善等の結果を得ている。
■ピープルアナリティクスの落とし穴
・”とりあえずやってみる”というスタンスで、分析テーマ、分析手法、分析ツール、分析対象等が乱立してしまうことが多い。ピープルアナリティクスの落とし穴にはまらないためには、「理論・事例を知る」「データの見方を知る」「打ち手を見据える」の3点が重要である。
■理論・事例を知る
・採用分析では、変化しやすい/変化しにくいコンピテンシーが研究により理論化されている。また事例としては新卒採用改革等の事例が増えてきている。
・メンタルリスク分析では、どのようなステップでメンタルリスクが顕在化するか理論として整理されている。事例としても人材データをAIにより分析してメンタルリスクの可視化や予兆を検知するものが存在する。
・エンゲージメント分析では、エンゲージメントの因子となるものが理論として整理されている。このような情報は論文等からも取得できる。
■データの見方を知る
・教師データ(目的変数)の量や質が十分か、教師データは正しいかといった観点で、教師データそのものを疑うことも必要である。
・ターゲットとする退職者等のデータ特徴だけを検討してその他の社員の特徴と比較しない等、説明変数が正しいかを考える必要がある。
・複数の異なる傾向を持つグループがある可能性もあるため、シングルモデルでの予測で良いかを検討することも重要である。
■打ち手を見据える
・打ち手を見据えるためには、当初から分析結果から示唆の読み解きが可能かを考えて分析を設計していく必要がある。
■大事なこと
・「アナリティクス・マネジメント」ができる人材が不足している。特に分析をストップできる人材が必要だが、それができる人材が少ない。自身でできない場合は、アナリティクスの専門家にコンサルティングを依頼する等の対応が重要である。
・良い分析のためには、何のためにこの分析を行うのか(why)から考えると良い。その上で、how, who, what, when, whereの順で決定していく。
・データ活用は企業業績の向上とともに、社員のEmployee Experienceを向上させることを目的にすることが必要である。例えばローパフォーマー分析等は社員からの信頼関係を損なうリスクがある。社員との信頼関係がなければ、正しいデータも取得できない。
開催概要
日時:2021年6月17日(木)15:00〜16:30
会場:オンライン (Zoom)
参加者:75名 ※法人正会員のみ
講師:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HR Analytics & Technology Lab 所長 入江 崇介 氏(協会上席研究員)
演題:「ピープルアナリティクスの基礎の振り返りと応用例の紹介」
講師:日本電気株式会社(NEC) Recruiting Expert 中村 亮一 氏(協会上席研究員)
演題:「ピープルアナリティクスの落とし穴」
主催・問合せ先
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 事務局
e-Mail:info@peopleanalytics.or.jp