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2021.12.24

【開催レポート】Digital HR Competition2021 ピープルアナリティクス部門

Digital HR Competition2021

「Academia」(理論)と「Technology」(技術)と「Service」(実務)の垣根を越えて、「労働市場における社会課題の解決」をテーマとして、好事例を共有し、より高い成果を求めていくべく、競い合い、学び合う場としてスタートした本コンペティションは、今年で4回目の開催となりました。

予選審査を経て、審査員である最先端の大学の教授や先生方とオンラインの観覧者に向けて、2021年10月19日にはHRテクノロジーソリューション部門4社、2021年11月2日にはピープルアナリティクス部門4社が最終プレゼンテーションを実施し、グランプリ受賞者の選出と表彰が行われました。

【公式ホームページ】
https://digital-hr.jp/

 

ピープルアナリティクス部門



グランプリ
日本電気株式会社(NEC)
【タイトル】パーパス実現につながるエンゲージメントスコア向上への取り組み
【概要】因果分析による「チームを変えるナレッジ」の獲得と社内展開
プレゼンター:人材組織開発部 海老沼 貴明 氏 
      小泉昌紀氏

<ご発表内容>
・グローバル人事コンサルティング会社「Kincentric社」のグローバルサーベイをもとに、「チームのコアドライバーはミドルマネージャーエンゲージメント向上に繋がるナレッジを提供するにはどうすれば良いか?」という課題に対してアプローチした。
・エンゲージメント向上に向けて策定した行動指針Code of Valuesを33要素へ分解し、360度アセスメントを行い分析した上で、部門・職種を網羅する形でエンゲージメントの高い組織長にインタビューを行った。
・インタビューで上司から主導的な役割で仕事を任せているカルチャーが共通していた事から、33要素の中の個人裁量権に着目した。
・個人裁量権の要因を探るため、33要素の重回帰分析・相関分析を実施し、さらに自社の因果分析ソリューション Causal Analysisを用いて観測データから因子間の「方向性」と「強さ」を可視化した。ここから上司の共感発信力は、部下の心理的安全性を高め、個人裁量権につながることがわかった。
・エンゲージメントトランスフォーメーションとして、「情熱やりがい」「個人裁量」のアンケート評価を用いて、上司を4クラスタにクラスタリングし、各クラスタに対し適切な施策を行う仕組みづくりをしていく予定である。先行的な研修をおこなっている速報値では研修後に部下からの心理的安全性評価が高まっている。

<受賞コメント>
今回の取り組みは多くの社内メンバーに協力いただいており、メンバーも喜んでいると思います。審査員の皆様、関係者の皆様にもお礼を申し上げます。今回のコンペティションでは普段はコラボレーションしていない社内のチームを巻き込むことができ、受賞の喜びとともに、そのようなネットワークができたことが何よりの成果だと思っています。ありがとうございました。



ファイナリスト
三菱ケミカル株式会社
【タイトル】エンゲージメントとパフォーマンス向上のキードライバー
【概要】エンゲージメントサーベイの結果分析と自社の課題解決へのアプローチ
プレゼンター:総務人事本部 佐藤 陸 氏

<ご発表内容>
・エンゲージメントサーベイについて統計解析を用いて解析し、従業員のエンゲージメント・パフォ-マンス向上のキードライバーを探ることで、過去の施策が従業員のエンゲージメント・パフォ-マンスに寄与するか検証した。
・分析の背景には、従業員活性化の取り組みとKAITEKI健康経営があった。
・エンゲージメントサーベイの内容について、生産性とエンゲージメントの把握とグローバルワイドでの分析がポイントであった。
・エンゲージメントサーベイのカテゴリーごとに相関係数を計算し、相関係数0.7以上の項目を抽出してパス図を作成した。
・共分散構造分析により、エンゲージメントのキードライバーとValue創出の原動力について分析した。
・分析の結果、「経営陣の戦略とリーダーシップ」「成長意欲と上司部下の信頼関係」「コミュニケーション文化」がエンゲージメント・パフォーマンス向上のキードライバーになっていることが分かった。


 
ファイナリスト
シスメックス株式会社
【タイトル】マッチングアルゴリズムが実現した「自律的な」キャリア開発
【概要】人事の恣意的な介入無く、個人と組織の希望マッチングにより人材配置を決定した事例
プレゼンター:人事本部 松井 有沙 氏

<ご発表内容>
・直面していた経営課題として、「従業員の多国籍化に伴う日本型の人材マネジメントの見直し」「従業員エンゲージメントの向上(特に専門性向上を重視する若年層)」があった。
・今回の取り組みでは、ジョブ型人事制度の枠組みの中で、自分のキャリアを自分で選べる世界をマッチングアルゴリズムで作った。
・新卒採用について、新入社員にとってブラックボックス化していた配属決定プロセスを、職種別採用かつジョブマッチングで配属を決めるプロセスに変更した。
・全社的な配属バランスと部門側の配属希望を満たす中で、最も社員側の希望を叶えるマッチングアルゴリズムを作成した。
・成果として、新入社員および部長級へのアンケート結果で概ね満足となり、全体の94%が本人の希望通りのマッチング結果となった。新入社員・部門の行動変容といった定性的な変化もあった。



ファイナリスト
NTTコミュニケーションズ株式会社
【タイトル】ワークスタイル変革の先にある『データドリブン経営』
【概要】ワークスタイル変革を通じて見えてきたデータ活用のステップについてのご紹介
プレゼンター:執行役員 ヒューマンリソース部長 山本 恭子 氏
                 エバンジェリスト(データサイエンス・ビッグデータ) 亀井 聡 氏

<ご発表内容>
・全従業員がリモートワークネイティブな働き手として働くことを目指してワークスタイル変革を行い、約80%の従業員がリモートワークを実施する体制を継続してきた。その結果、ES調査ではすべての項目で満足度が大きく上昇し、過去最高の結果となった。
・1年半のワークスタイル変革を通じて、ワークスタイル変革こそがデータドリブン経営/DX経営改革につながること、ワークスタイル変革は社員のWell-being実現の第一歩であることがわかった。
・全社ビッグデータ基盤(データレイク)によるアドホック分析を行い、Workstyle DashboardやOutlook会議数とTeamsミーティング数を可視化。今後様々なツールを活用、会議効率についても分析を深めていく。
・社内でデータをオープンにすることの意義として、DX推進組織としてはHRという極めて秘匿性が高いデータをオープン化することができたことは社内データ活用事例として極めて意義が大きいと考えている。またHRとしてはデータに基づく議論の活性化が重要と感じる。
・社内でデータをオープンにすることの課題への対処として、データの匿名化・統計化や制度的な建て付けの整備を行っている。


 

審査員長 講評

早稲田大学政治経済学術院 大湾秀雄教授

今年は今までにもまして楽しいコンペティションだったと感じた。新規性もあり、審査員としても学ぶところも多かった。特に良かった点として「経営目線で全社的な課題を特定し解決するテーマが多かったこと」「民主的なデータの利活用を行っていること」を挙げたい。このコンペティッションも初期は社員に共有することを前提としていない発表が多かったが、今回は社員への結果の共有・社員の巻き込み・社員へのデータ提供が行われていた。現場や社員一人一人の課題発見や意思決定をデータ活用で支援できるようになると良い。改善点としては効果検証がまだ弱いと感じる。昨年も同様のコメントをしたが、社内でピープルアナリティクスの取り組みをする際、その成果をどのように計測するかをあらかじめ決めておくことで、分析の評価もスムーズに進められるのではないか。グランプリの日本電気株式会社(NEC)においては、ぜひ介入による効果がどの程度あったかを今後検証していただきたい。研究からはマネージャーの能力向上は難しく、優秀なマネージャーの選別のほうが容易かつインパクトも大きい印象を持っている。その中で共感発信などポイントとなる要素を特定して研修で介入することで、効果的にチームのパフォーマンスが上がるのであれば、多くの企業にとって希望の光になるだろう。またどのような上司のもとであれば共感発信や個人の裁量権が高くなるかを分析することで、良い上司を選別するツールも同時に提供できるのではないか。今後のジョブ型雇用の進展に伴い、そのような選抜の軸を決めていくことは重要な課題と考えている。

審査員コメント

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 岩本隆特任教授
年々レベルが上がっており素晴らしい。特に今年特徴的だったのは、データ分析手法自体はオーソドックスだが、経営に活かすことに主眼を置いたピープルアナリティクスになっていた点と感じた。また成果が上がっていることによる自信が感じられた。今後、アクションとその結果の改善のデータが蓄積されると、よりピープルアナリティクスとしてのレベルが向上するのではないか。今年は機関投資家からの講演依頼が多く、これはデータを活用して人的資本マネジメントを行っている企業の株価が高くなっているためである。特徴的なのは、リクルートホールディングスの時価総額が今日時点で約13兆円と日本でトップ4に入っていることである。サービス・ソフトウェア産業が伸びており、企業価値において無形資産が重要になっている。その意味で、ピープルアナリティクスは企業価値の向上にあたってもますます重要になっていくと考えられる。

株式会社サイバーエージェント 曽山哲人常務執行役員
日本電気株式会社(NEC)は裁量権に着目された点がとても素晴らしいと思いました。経営課題の解決に貢献する分析と感じました。今後はこれがどう業績に繋がっていくのかも見ていただけると嬉しいです。三菱ケミカル株式会社は網羅性・俯瞰の点からとても良い示唆がありました。さらに経年推移や部署ごとの比較も見たいと感じました。シスメックス株式会社は感情・意欲のマネジメントとして模範的な活用例であった。今後は意欲に加えて強みのマッチングも検討されると業績向上に繋がるのではないか。NTTコミュニケーションズ株式会社はデータをオープン化することの有効性を示していただいた模範。中でも会議の分析に注目しました。この分析が会社単体ではなく、社会のプラスになると思いました。

明治学院大学経済学部 児玉直美教授
大変素晴らしいプレゼンで勉強になった。三菱ケミカル株式会社は、今後分析に基づいた「打ち手」の効果を、今後是非検証して欲しい。シスメックス株式会社は希望に沿ったマッチングが満足度向上に資するという点が良いと思った。更に、マッチング結果満足度の、事前の結果もあると良かった。日本電気株式会社(NEC)は効果分析の見本のような事例であり、データ分析の限界を考慮し、データ分析だけでなくインタビューを組み合わせた点が素晴らしかった。また効果をbeforeとafterで分析できていた点も良かった。NTTコミュニケーションズ株式会社はデータの公開は素晴らしい施策である。発展余地は大きく、来年以降に更に効果の検証が見られると良いと感じた。

早稲田大学理工学術院 創造工学部経営システム工学科 後藤正幸教授
理工学的に機械学習・AI技術を専門にしている立場から本日のピープルアナリティクスでの応用事例を拝見し、斬新な発見が多々あった。三菱ケミカル株式会社は3年連続でファイナリストに選出されており、たいへん実力の高いチームである。パス解析や共分散構造分析等は良かったが、昨年や一昨年の内容を踏まえ、今回の分析の新規性を明確にしたプレゼンテーションするとより良いのではないか。シスメックス株式会社は審査員の評価が高かった。しかし異なる専門分野から見ると、マッチングのアルゴリズムにどのような工夫があるかが見えるとより良かった。先見性のある取り組みだと感じるため、引き続き拡大していただきたい。日本電気株式会社(NEC)も非常に評価が高かった。回帰分析と機械学習の結果が食い違っていた点があったが、それを踏まえた考察も加えられるとより良い。NTTコミュニケーションズ株式会社は先進的過ぎたためにグランプリに届かなかったものと感じている。半年後・1年後にオープン化されたデータの活用事例が出てくると良い成果になるのではないか。

 

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